2015バルセロナGPF追想~ArtOnIceより「羽生のモンスタースコアがルールを揺るがす」

ISU公式Youtubeチャンネルで2015バルセロナGPFが配信されました!

私にとっては記念すべき初現地観戦でこの演技ですから、夢の中にいるような数日間でした。

 

伝説のファイナルを回想しつつ、イタリアのフィギュアスケート専門サイトArtOnIce.itに掲載された当時の記事をご紹介したいと思います。

原文>>

2015年12月22日

羽生結弦は技構成点で大量の10点、GOEで大量の+3(すなわち得点コードにおける満点)をかき集め、ショートで100点、フリーで200点、トータルで300点を大幅に超え、以前の世界最高得点を文字通り完全に打ち砕いた。

他のスケーター達は彼の足跡を追う。

これによって幾つかの深刻な懸念が生まれた:2002年オリンピックのスキャンダルの後、苦労して考案・精練され、2004年に導入された採点システムが既に上限に達しているということだ。

まさにこのような理由から、ISU技術委員会委員長のアレクザンドル・ラケルニクは、インタビューでロシアメディアに対して幾つかのルール改正が必要なことを認めた。
特に、GOEの幅を現在の-3から+3の7段階から-5から+5の11段階、または1から10の10段階に広げる考えがあると話した。またルールのシンプル化についても言及した。

この提案は2016年に開かれるISU会議で議論されるが、2018年オリンピックが差し迫っているため、翌シーズンからではなく、五輪後に導入される予定である。

更に、ラケルニクはコンポーネンツの見直しを研究していることも話したが、専門家同士の意見があまりにも違うため、このプロジェクトについては詳述出来ないと話した。

鍋の中で何かが沸騰している。
解決策を待つしかないだろう!

ソース: rsport.ru

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この頃は羽生君のジャンプがあまりにも完璧過ぎて+3では足りないから、より差別化するためにGOEの幅を広げると言われていました。

当時のGOEプラス要件は8項目:

  1. 意表を突いた/独創的な/難しい入り
  2. 明確ではっきりとしたステップから直ちにジャンプを跳んでいる
  3. 空中での姿勢変形/ディレイド回転のジャンプ
  4. 高さと飛距離が十分
  5. 四肢を十分に伸ばした着氷姿勢
  6. 入りから出までの流れ
  7. 最初から最後まで無駄な力が入っていない
  8. エレメントが音楽構造に合っている

 

+3を獲得するには、この内6項目を満たしている必要がありますが、8項目を全て満たしているジャンプと、6項目だけ満たしているジャンプが同じ+3なのは大雑把過ぎるから、更に細分化するのかなと私も思っていました。

ところが、蓋を開けてみると、ジャッジの自由裁量で採点出来る部分が多くなったことで、客観性が失われ、各ジャッジの思惑がより反映され易くなってしまった印象を受けます。

ここ2シーズンのジャッジング傾向を見ていると、多くのジャッジが細かく定めされた採点基準やGOE要件に関係なく、その場の勢いや雰囲気で勝手に点を出しているように見えます。

「おー!4ルッツが綺麗に決まったから+5!」みたいな。

音楽に合っているとか、助走の有無とかあまり見てないじゃないでしょうか😩(ちなみに長い助走はマイナス要件です)。

来シーズンからチートジャンプが減点対象になりましたが、踏切がクリーンかどうか判断するのはジャッジの仕事ですから、5コンポーネンツや各エレメンツのGOEを採点しながら、踏切までチェックする余裕があるのかなとは思いますし、レビューで回転やエッジを確認するテクニカルパネルに踏切もチェックしてもらって「c」とかマークを付けた方が効率的なような気はします。

でも、マッシミリアーノさん曰く、ここ数年ほどジャッジや採点に対する不満や不信感がスケートファンの間で高まり、「検証動画」なるものがこれほど量産されたことは未だかつてなかったそうですから、ISUにも少なからずそのような声は届いているはずで、だからこそのチートジャンプ減点ルールなのでしょう。

ルール変更を見る限り、ISUはよりクリーンで正しい技術を奨励する方針のようですから、実際の採点でこれらがどう適用されるのか、来季の試合を見守りたいと思います。

でも新型コロナのせいでジャッジの皆さんの研修もきっとオンラインですよね?

バルセロナGPFのSEIMEIを教材にすべきじゃないですか?

教本通りの技術で完璧に実施された全てのエレメンツ、多彩なステップ、ふんだんに盛り込まれたターン、正確なエッジワーク、リンクカバレッジ・・・
「理想のフィギュアスケートとはこうである」が4分半に集約されています。

このSEIMEIが如何に難しいプログラムなのか、マッシミリアーノさんとアンジェロさんがポッドキャストで詳しく解析してくれています。

Neveitaliaポッドキャスト「羽生結弦とパトリック・チャンの対決をX線分析する」

 

ロシアのフィギュアスケート専門家によるこちらの解析も凄いです。

ロシア人エキスパートによる男子上位選手のフリープログラム難度分析(その1)

ロシア人エキスパートによる男子上位選手のフリープログラム難度分析(その2)

 

3A-Eu-3Sの入り、何度見ても凄い!

コレオシークエンスから跳んでいるようなものです。

あんな跳び方で3アクセルを跳べる人は他にいないでしょう!

 

バルセロナGPF、女子シングルの配信も見ましたが、表彰台のメンバーもファイナル進出選手も今とは全く違っていて隔世の感が😢・・・

女子は移り変わりが早過ぎて先が読めないです。

この大会ではシニアに上がったばかりのメドちゃんの無双が既に始まっていますが、個人的に女子で一番強烈なインパクトを受けたのはジュニアのポリーナ・ツルスカヤでした。質の高いスケーティングとスピード、そして男子並みに高さと幅のあるダイナミックなジャンプ、特に3Lz-3Tに圧倒されました。

この頃、マッシミリアーノさんは平昌金メダルはツルスカヤと太鼓判を押していましたが・・・大ハズレでしたね。😅

そして、真央ちゃんを生で見たのもこの大会が最初で最後でしたが、滑りと所作の美しさは別格でした。軽やかで優美で天女みたいでした。

さっとんのファイヤーダンスも素晴らしかったです!

 

男子はマッシさん曰くアポテオージ(英雄の神への変身)が起こった神大会で、どの選手も素晴らしい演技でした。

各選手の個性と長所が光る大会で、多くの人によって史上最高のファイナルと見なされています。

実際、これほどコンプリートな選手達が揃ったファイナルは後にも先にもないのではないでしょうか?

 

ガゼッタ・デッロ・スポルトが1ページ丸々割いて特集記事を書くほどでした。

La Gazetta dello Sport紙より「羽生、限界を越えて:『完璧』が人間になった」

ガゼッタは紙面の9割がCalcioというサッカー新聞ですから、オリンピックでも世界選手権でもないのに、マイナースポーツのフィギュアスケートの、しかも外国人選手を特集するのはかなり異例なことです(ちなみに自国開催だったトリノGPFのフリーは何故か完全スルーでした)。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu