L’ALTRO GIAPPONE「トータルパッケージ~羽生結弦に捧ぐ」プレビュー2

L’Altro Giapponeのオフィシャルサイトにマッシミリアーノさんの講演「トータルパッケージ~羽生結弦に捧ぐ」の詳しい紹介記事が掲載されましたのでご紹介します。

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L’Altro Giappone(2021年9月29日)

人間、チャンピオン、アーティスト、スーパースター
2021年10月3日17時:マッシミリアーノ・アンべージによるビデオ&トーク

彼のような選手は他のスポーツでは「ゲームチェンジャー」と定義される。  歴史の流れを変え、自らの競技を進化に導いた選手達。全ての若手選手達にとって避けて通れないある種の指標となる存在。彼らが上達するために模倣しようとする模範。彼が競技から引退した暁には、羽生の出現前と現役中のフィギュアスケート、そして引退後のフィギュアスケートを区別しなければならない。別のスポーツで彼に匹敵する人物を探すには、バスケットボールのマイケル・ジョーダンのような伝説の人物を引き合いに出さなければならない。

羽生結弦は、技術的万能と芸術的卓越を融合できる史上最もコンプリートで多様性に富んだスケーターの「最高の形」として歴史に刻まれる。

もし「フィギュアスケートとは何か?」と訊かれたら、羽生結弦に思いを馳せずに答えることは不可能だと私は確信している。彼はただただ絶対的な規格外の選手であり、計り知れない価値を持つこの競技の財産なのだ。

マッシミリアーノ・アンべージ(KADOKAWA「氷上の創造者」2021年)

被災地から世界の頂点へ

2014年と2018年における2つのオリンピック金メダル。羽生結弦の偉大さを示すにはこの情報だけで十分です。オリンピック連覇を成し遂げた男子スケーターは他に存在しません。最後にこの快挙が成し遂とげたのは1948年と1952年のディック・バトンで、66年も昔のことです。別の時代の別のフィギュアスケート、今よりもずっと小さな世界でのことです。

テレビが取り扱う全ての範囲を拡大したとすれば、羽生が成し遂げたことはあまりにも規格外であり、2度目のオリンピック金メダルの数カ月後に彼が国民栄誉賞を受賞した際、安倍晋三首相が強調したように、世界中の人々に夢、勇気、そして希望を与え、彼らの感情を共鳴させる反響板になるほどでした。

羽生はソチと平昌の2つの金メダルという結果だけで伝説になる権利があります。これは前例がほとんどない偉業であり、2014年の金メダルはアジアの男子スケーターにとって史上初のタイトルでした。世界選手権で2度の金メダルもアジア男子史上初です。世界選手権で合計7つのメダルを獲得したのも第二次世界大戦以降、彼以外一人だけです。グランプリファイナル4度の金メダルもエフゲニー・プルシェンコと並び、圧倒的に史上最高の数なのです。2020年にはスーパースラムを達成し、ジュニアとシニアの主要大会を全て制した史上初の男子スケーターになりました。彼が樹立した世界最高記録は19回に及び、史上初めてショートプログラムで100点、フリープログラムで200点、トータルスコアで300点の記念すべき大台を超えたのも彼でした。

しかし、このような並外れた成功の数々も、子供の頃から彼を苦しめた喘息に始まり、最初のオリンピック金メダルから数か月後に起こった恐ろしい衝突事故や2度目のオリンピック金メダルの僅か3ヵ月と少し前に起きた右足首の大怪我を含む、彼のキャリアを困難にした数々の怪我に至るまで、常に逆境を克服してきた彼の一人の人間としての歩みの前では色褪せてしまうのです。とりわけ2011年における東北の地震は彼の街とリンクを破壊し、彼の心に深い傷を残しました。16歳で死んでいたかもしれないという意識、自分が持っているものへの感謝の気持ち、助けを必要としていることを身を持って体験したからこそ、他人を助けたいという思いを彼は決して失いませんでした。具体的な経済的支援と並行して彼は震災以降、エキシビションナンバーのほとんどを震災に捧げています。しばしば日本の曲に乗せて演じていますが、羽生が行っているのはただの追悼ではありません。彼のおかげで、日本は彼のより純粋な表現である芸術の域において、オリンピックや世界選手権という最も重要な舞台に上がることが出来たのです。

スケートはスポーツであり、正確な技術要素が求められます。そして羽生は常にその最前線にいて、他の選手達が彼に近づこうと試みるために自分達の限界を引き上げることを強いています。史上初めて4ループを実施したのも彼でした。しかし彼の抱くフィギュアスケートのビジョンでは、技術面が芸術面と融合しない限り、プログラムは未完成であり、彼は演じる全ての音楽をあらゆる側面から掘り下げているのです。そして、西洋の作品の崇高な解釈と共に、古典的な作品であっても大衆文化に属する作品であっても同じように並外れたものになり、世界中の観客の前で命を吹きこまれ、彼らの魂の中に入り込み、最も偉大な芸術家にだけ可能なカタルシス効果(精神の浄化)をもたらすのです。

マルティーナ・フランマルティーノ(Sportlandia「羽生結弦-イントロダクション2021年9月16日

スポーツ競技の理論家

羽生結弦はスケート靴を履いた実践において傑出しているだけでなく、フィギュアスケートの真の専門家であり、研究者であり、理論家なのです。彼自身「芸術と言うのは明らかに正しい技術、徹底された基礎に裏付けされた表現力、芸術であって、それが足りないと芸術にはならない」と発言しています。
(2018年2月28日FCCJ外国特派員協会会見:https://youtu.be/8VlP1Juv-RI?list=LLrWIRLUQbDnfUynyWtKEqzQ

この確固たる信念を抱き、彼は東京にある早稲田大学の人間情報学と認知科学の研究課程である人間科学部に入学し、2020年9月20日に卒業しました。その研究課程において、彼は自身の技術と練習方法を向上するだけでなく、競技におけるより広範囲における潜在的用途も視野に入れ、モーションキャプチャテクノロジーのフィギュアスケートへの適用に焦点を当てました。この技術で得られるデータは、自らのジャンプ技術を向上させたいスケーター達に、生徒を指導し、彼らの技術を直さなければならないコーチ達に、そして競技会でのアスリートのパフォーマンスを審査するために呼ばれる人々にとって実際に役立つことでしょう。

羽生は自身の研究のために、最先端の3Dモーションキャプチャテクノロジーを使用しました。これにより、身体の様々なポイントに約30個のセンサーを配置することで、人間と特定の空間における動きのデジタルモデルを作成することが可能になりました。彼はセンサーを装着してジャンプを分析し、ジャンプのダイナミクスをより良く理解しました。

彼の学位論文は、アスリート達に準備とトレーニングを改善するためのツールを提案することで競技の発展を推進し、AI(人工知能)を使用することにより、より正確で正しい審査に貢献するという彼自身が表明した希望を込めて、これらの研究結果を書面化したものなのです。もし国際スケート連盟によって考慮されるなら、彼の論文はこのスポーツの真のターニングポイントになるかもしれません。

被災者への絶え間ない献身

仙台が羽生結弦の記念碑を建てたのには理由があります。彼は2度のオリンピックチャンピオンであり、街の誇りであるだけでなく、2011年の地震と津波後の復興を支援し、地域経済にも大きく貢献をしてきました。公式推定によると、2018年に仙台で行われた2回目のオリンピック金メダルを祝う凱旋パレードには、約108,000人が集まり、地元に膨大な経済効果をもたらしました。市内におけるホテルの宿泊代と食事代は11億4000万円(約900万ユーロ)でした。更に間接効果を考慮すると、利益は約7億1000万円(約550万ユーロ)に上ります。パレードの開催費用1億9,600万円は、グッズの販売(1億7,600万円)、企業スポンサー(1,900万円)、寄付(2,300万円)による収入で完全にまかなわれ、2,200万円の余剰金が県内のスケート施設や学校、若いアスリート達の支援に当てられました。https://www.asahi.com/articles/ASLCZ3V33LCZUNHB009.html

羽生の注意はとりわけ彼が育ち、選手として形成された場所であるアイスリンク仙台に常に向けられてきました。彼の2冊の自伝の印税は全額アイスリンク仙台に寄付されています。それ以外にも、彼の施設への寄付は今も続いており、現在までに31,442,143円に及んでいます。 https://www.nikkansports.com/sports/news/202103100001155.html

これらは羽生結弦がその中心にあり、新語義「ハニューエコノミー」の語源となった経済活動のほんの一部に過ぎません。最新の例を挙げると、淡路島の諭鶴羽神社の宮司が、害虫に襲われた神社の天然記念物アカガシの森を救うために寄付金を募った時、これに応じた人々の大半が羽生ファンでした。必要とされていた額を大きく上回る500万円もの寄付金が集まりました。
https://www.kobe-np.co.jp/news/awaji/202105/0014347578.shtml

日本のチャンピオンがソーシャルネットワークを一切やっていないこと、プライバシーが厳重に守られた世間から遠ざかった生活を送っていること、そして公式イベントの際にのみ一般の人々とコミュニケーションを取ることことを考慮に入れると、世界中で突出する以下の数字は驚異的です。例を挙げましょう。中国では、羽生結弦情報チャンネルのWeiboネットワークのフォロワーが2014年(20,000人)以降、飛躍的に増加し、119万人を超えるファン数を獲得しています。 この数字は史上最高のスケーターだけでなく、崇高な芸術家であり、並外れた人間であるこの男性に対する尊敬と愛を明確に物語っています。

エレナ・コスタ(羽生結弦イタリアンFBファングループ管理者)

フェスティバル「RESISTERE / RINASCERE(抵抗と再生)」
において

羽生結弦はまだ現役のオリンピックチャンピオンです。そして彼のスポーツと芸術の軌跡を解説するのに、東京2020から彼が出場するかもしれない北京2022までの2つのオリンピック大会の間の数か月間ほど適切な時期はありません。「抵抗と再生」をテーマにしたイベントの一環として、故郷の仙台を襲った三重苦の大惨事(地震、津波、放射線)の10周年に、ストイックな強い意志、超人的な献身、比類のない才能によって何が達成出来るのかを証明する物語は他にはありません。

フェスティバルを締めくくるクロージングイベントでは羽生のアスリートとしての軌跡を、スポーツ界の絶対的な権威であるマッシミリアーノ・アンべージが分析しますが、彼自身にその最高の旗手になることを決意させた彼のルーツである文化に関する他の側面にも触れます。これほど短時間でこの人物の全ての側面を検証するのは不可能なのは承知していますが、フェスティバルのオープニングイベントの主役だった偉大な女形、坂東玉三郎を紹介する際にも述べたように、「演劇とフィギュアスケートという2つのパフォーマンス分野における『完璧』の追求は、個人として、またはコミュニティとして国が生まれ変わるために必要な芸術的・文化的資源の模範である」と確信しています。     生きる伝説であり、永遠に輝き続ける恒星のような人物。

バルバラ・ワシンプス(L’Atro Giappone芸術監督)

2010年から2013年までスポーツメディアポータル「Wintersport-news.itポータルの編集長を務め、同時に雑誌「Universo Bianco」のコラムニストと編集者を兼ねるマッシミリアーノ・アンべージは、現在、スポーツ評論において世界で最も有名な人物の1人である。 2003年以降、ユーロスポーツのアナリスト、解説者、コラムニストを務め、先日の東京オリンピックでも同様の立場で活躍した。2020にはビデオ/テレビ界の最も優れたスポーツ専門解説者を選出する「スポーツ・イン・メディア」コンテストでMicrofono d’Oro-Bis賞(金マイク賞)を受賞した。


☆こちらはマッシミリアーノさんのFB投稿。ヤル気満々なのが伝わってきますw
講演がますます楽しみ!

10月3日(日曜日)、名門ナポリ国立考古学博物館の魅力的な空間が、歴史上主要なスポーツの象徴の一人である羽生結弦の人物像に焦点を当てた講演の舞台となる。

今回が第3回目となるアート、映画、写真の各分野を網羅した威信あるフェスティバル「L’Altro Giappone」(9月29日-3月3日)はこの講演で締めくくられる。「抵抗と再生」にこれ以上相応しいテーマはないだろう。

フィギュアスケートにとってはこのスポーツの文化的・社会的価値、そしてこの場合には芸術的価値をもう一度再確認するために必要不可欠な千載一遇の機会である。

この数週間、企画/運営面において全力を尽くしてくれた全ての人々とこのイベントを考案してくれた人に感謝を捧げる。

講演はオーディトリアム(講堂)にて17時から開始される。

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☆ナポリ中心街にあるナポリ国立考古学博物館はウフィツィ美術館やバチカン博物館と並ぶイタリアで最も重要なミュージアムの一つであり、ローマ美術では世界最高の考古学博物館と見なされています。

博物館の壮麗なファサード

館内

博物館のメインは常設展示品である古代ローマの壮麗な彫刻の数々ですが、オーディトリアムのある棟では様々な企画展、文化イベント、講演が開催されます。

このような威信ある場所で、日本のアスリートをフォーカスした講演が行われるということ自体、私達日本人にとって誇らしいことですが、マッシミリアーノさんが言うように、フィギュアスケートの選手がこのような重要な場所、しかもスポーツともフィギュアスケートとも関係のない、西洋の歴史と文化と美術の殿堂のような場所で、重要な文化イベントを締めくくる主役として取り上げられることは、イタリアではマイナースポーツであるこの競技の素晴らしさを一般の人々に広める千載一遇の機会です。現在のフィギュアスケート界にスポーツや競技の壁を超えて世界中の人々にインスピレーションを与える羽生結弦というカリスマ的存在がいるからこそ起こった幸運であり、この点においても、彼のフィギュアスケート界への貢献が如何に計り知れないものかが分かります。

そしてマッシミリアーノさんが現地で講演出来る幸運。

マッシさんの住む西リヴィエラのインぺリアからナポリまでは電車で7時間半から8時間半、車で8時間強、飛行機でもミラノまで車で行き(約3時間半)、そこからナポリまで飛行機(1時間20分)という気が遠くなるような遠さで、日本なら例えば青森から博多に行くようなものです。

冬季シーズンが本格的に始まる来月でもオリ/パラリンピックのあった先月でもマッシさんは多忙でおそらくリモート出演になっていたでしょう。

イベントがまさにこのタイミングで開催され、マッシさんが威信ある国立考古学博物館のオーディトリアムの壇上に上がり、羽生結弦について熱弁するなんて胸熱です😭

イベントはいよいよ明日です

きっとユヅル愛が炸裂しますね!

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu