マッシミリアーノさんのフィギュアスケート専用ポッドキャスト『Tutti con Ambesi』から
前回の続きです。
翻訳は抜粋・一部要約です。
出演
マッシミリアーノ・アンベージ(イタリア・ユロスポ実況/コラムニスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(元フィギュアスケート選手で元イタリア・ナショナルチャンピョン、イタリア・ユロスポ解説)
ア:ループを入れると言うことは、4本目の4回転ジャンプを入れることになる。
ジン・ボーヤンが既に行っていることだ。
マ:ジン・ボーヤンは当然のことだけれど、羽生結弦は彼のアイドルだと発言している。
疑う余地はないだろう。
バルセロナにいた全ての人があることに気が付いた。
公式練習で羽生結弦がジン・ボーヤンのランスルーを最初から最後まで一際注意深く見守っていたことだ。
これは彼が4ルッツを盗もうとしていたことを物語っている。
『盗む』とは勿論、いい意味でこのルッツを4回転完全に回り切る技術を習得しようとしていると言うことだ。
結弦は4ルッツはまぐれで数回降りただけだと発言している。
一方、4ループはエキシビションで何の準備もなくほぼ完璧に着氷した。
つまり、プログラムにこのジャンプを組み込む準備が出来ていることを意味している。
おそらく3フリップの場所にこのジャンプを入れるつもりだろう。
今シーズンから彼はこのフリップを崇高なクオリティで決めているが、少し前まではエッジの問題で羽生にとってあまり得意なジャンプではなかった。
今では特別に考案された入りの工夫もあって、彼にとって自動的にGOE+2/+3を獲得出来る得意なジャンプになった。
3フリップを4ループに置き換えると基礎点は6.7点上がることになる。
公式大会ではまだ誰も決めたことが一度もない4ループの基礎点は12点だからだ。
これはもう『宇宙的』としか定義出来ないレベルだ。羽生は史上最高のジャンパーで、素晴らしいエッジジャンプを跳ぶ。
エッジジャンプとはアクセル、ループ、サルコウのことで、彼のようなジャンパーは未だかつて見たことがない。
フェルナンデスもこのタイプのジャンプが得意で、4サルコウを軽々と跳ぶことが出来るが、羽生結弦の方がフェルナンデスに比べて断然難しい入り方から4サルコウを跳んでいる。
3アクセルの入り方については勝負にならない。
3アクセルの入りの難度については、フェルナンデスも羽生の次に難しい入り方で跳んでいる。ただし、特別美しいジャンプという訳ではない。
ア:でもかなり上達したよね。
マ:確かに彼の3アクセルは向上した。
おそらくフリーに2本目を入れることを検討する時がやってきたと思う。
もし結弦に少しでも近づきたいなら2本目の3アクセルは必須だ。
3ループもフェルナンデスの得意なジャンプで、フリーではプログラム終盤にイーグルから跳んでいる。
そして彼らは一緒に練習することで切磋琢磨し、互いを高め合っている。
僕は確かな情報筋からフェルナンデスも練習では4ループを決めたことがあると聞いている。
成功率はかなり低いのかもしれないけれど、彼だって4ループをプログラムに入れることを考えているかもしれない。
いずれにしても、羽生はブレードを使って跳ぶジャンプについては全く驚異的だ。
これほど簡単に、軽々と跳ぶ選手はこれまで見たことがない。
3アクセルは止まった状態から跳ぶことが出来る。
3アクセルは、他の多くの選手にとって人生が変わるほどのエレメンツだ。
これが彼と他の全ての選手達との差なのだ。
ア:その通り、
彼はこのアドバンテージを生かしてスーパーパワーを発揮し、無敵のプログラムを構築した。3アクセルを全てプログラム後半に移動し、あまりにも『初歩的』(笑)に決めてしまう。
これによってプログラム前半により高難度なジャンプ(より高難度なジャンプとは2本の4回転ジャンプのことだけれど)を入れ、今シーズンから3本目の4回転ジャンプは後半冒頭に入れた。
羽生結弦は史上最高の驚異的なジャンパーのひとりだ。
全てのジャンプを素晴らしいクオリティで簡単に跳ぶことが出来る。
プログラム最後に跳ぶルッツも見事だ。
つまり、全てにおいて規格外の才能がある。
でも特に3アクセルは彼に幸運をもたらした必殺技だ。
3アクセル/1Lo/3サルコウのコンビネーションを跳ぶのは彼とジン・ボーヤンだけだろう。
マ:問題は、羽生結弦はこのエレメントをプログラム開始から3分後に決めるということだ。
ア:ジン・ボーヤンもバルセロナではリカバリーするためにプログラム終盤でこのジャンプに挑戦したが、クオリティが違う。
GOEを考慮すると、最終的な得点差は膨大なものになる。1つのジャンプだけで4点ほどの差が付く。
マ:羽生結弦はこの点について長々と説明し、彼にとっては各エレメンツを彼が思い描く方法で跳び、GOE満点を獲得出来るクオリティで決めることが重要だと強調した。
つまり、コンセプトはこうだ。
現在、ジン・ボーヤンに比べて4回転ジャンプは1本少ないけれど、3アクセルを4回転ジャンプに値するジャンプに変える。
これが彼の秘密なのだ。
彼はこの秘策でオリンピック金メダルを獲得した。
あのシーズン、彼はグランプリファイナル、オリンピック、大差を挽回して世界選手権で優勝した。
他の選手との違いは、彼はトリプルアクセル2本を後半にコンビネーションにして軽々と決めることが出来たことだ。
当時から既に2種類の4回転ジャンプを跳べていたことも忘れてはならない。
2種類の4回転ジャンプを入れることで、8本のトリプルジャンプを後半に跳ぶことが出来た。
まあフリップは前半に跳んでいたけれど、2本のアクセルを含む7本のトリプルジャンプを後半に跳んでいた。
つまり、彼が心身ともに健康で、練習が積めていると無敵だということだ。
勿論、彼はディーゼルカーでエンジンがかかるまでに時間がかかり、シーズン初戦は苦戦することがあるけれど、フィジカルコンディションが整う11月中旬頃にはクリーンな演技が出来るようになることを僕達はこれまでも見てきた。
彼が健康だとなす術がない。
ファイナル三連覇は史上初の快挙だ。
ヤグディンとプルシェンコですら、3連続でファイナルを優勝したことはなかった。
というのも互いにつぶし合っていたからだ(笑)
でも、羽生結弦にだって強いライバルはいる。
ア:その通り、僕が強調したかったのはそのことだ
マ:今シーズンのファイナルでは、フリープログラムで歴代第2位の得点を獲得したハビエル・フェルナンデスに勝った。
昨シーズンは安静状態で圧勝した。
フィジカルコンディション70%で出場し、素晴らしいプログラムを滑って優勝したけれど、羽生の勝利を予測することは難しかった。
オリンピックシーズンのファイナルはパトリック・チャンが優勝すると言う皆の予想に反して羽生結弦が制した。
ファイナル三連覇
これら全ての快挙を考慮すると、他のあらゆる競技を含めても、MVPは彼に相応しい。
ア:僕達は圧倒的実力を誇る天才を目の当たりにしている。
スピン、ジャンプ、ステップ、スケートのあらゆる技術に傑出している。
君も言ったようにライバル達もハイレベルなのだ。
もしかしたら演技構成点の1項目、または1つのエレメンツだけ見たら彼を僅かに上回っている選手もいるのかもしれない。
問題は彼がホールパッケージだと言うことだ。
ホールパッケージという観点で見た時、羽生に弱点はない。
例えばパトリック・チャンの方が振付けの完成度が高いと言うことが出来るかもしないが、ほんの僅かな差であって、全体を見た時、羽生は全てにおいて圧倒的な強さを誇る完成形の選手なのだ。
彼のような選手がリンクに立った時、どうしたら勝てる?
不可能だろう。
マ:彼はあらゆる歴代最高得点の保持者になった。
総合得点だけじゃない、演技構成点の各項目の点、技術点、得点を構成する全ての点についてだ。これは衝撃的なことだ。
スピンでは彼より高い点を獲得しようと試みることが出来る者がいるかもしれない。ジェーソン・ブラウンとか。
彼のフリープログラムのフライングキャメルスピンはより高難度だから。でも3つのエレメンツに過ぎない。
羽生は全てのエレメンツで+2/+3を持ち帰る。
ア:もしかしたらスピンで0.10点彼を上回る選手がいるかもしれない。演技構成点の1つの項目で0.10点上回る選手もいるかもしれない。
でも全てを合計したら、仮に演技構成点で彼に近い高得点が出たと仮定しても、まず技術点で15点以上の大差がある。
ショートプログラムでは誰も彼に近づくことすら出来ない。
マ:実際、(ショートでは)彼は3本のクワドを跳ぶようなものだからね。
後半の3アクセルはクラクラするような美しさで、ジャッジはGOE+2以下を付けることは出来ないだろう。つまり自動的に+3を獲得する。後半に跳んでいるから4回転ジャンプと同じ得点を稼ぐ。
彼のショートは4ルッツ/3トゥループのコンビネーションを跳ぶジン・ボーヤンを含め、誰にとっても手が届かない。
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ア:バルセロナにいた全ての人があることに気が付いた。
公式練習で羽生結弦がジン・ボーヤンのランスルーを最初から最後まで一際注意深く見守っていたことだ。
↑サイコキラーのような目つきでボーヤン選手をガン見している羽生君が目に浮かぶ・・・
かつてパトリックを見ていたように