マッシミリアーノさんのフィギュアスケート専用ポッドキャスト『Tutti con Ambesi』から
前回の続きです。
翻訳は抜粋・一部要約です。
出演
マッシミリアーノ・アンベージ(イタリア・ユロスポ実況/コラムニスト)
アンジェロ・ドルフィーニ(元フィギュアスケート選手で元イタリア・ナショナルチャンピョン、イタリア・ユロスポ解説)
<史上最高のフリープログラムに敬意を!今後の展望>
マ:こうなると過去の偉大な選手と比べて誰が史上最高の選手かを議論しようとする者が出てくる。
遥か昔の選手と比較するのは難しい。
多くのユーザーがヤグディンと比較していて、あるユーザーが「羽生結弦は芸術性ではヤグディンを超えられない」と書いているのを読んだ。
ヤグディンと結弦は全くタイプが異なる選手だ。全く違う資質を持つ、タイプを異なる選手を比べて「芸術性では越えられない」などと書くのは狭量過ぎるだろう。
いずれにしても二人共、多大なクオリティを誇る偉大な選手だ。
おそらく技術面を比較する方が簡単だろう。
2002年オリンピックからは14年もの月日がたっているけれど、ジャンプとスピンと比較すると、羽生結弦はヤグディンのような偉大な選手と比べても頭2つ上回っている。
プルチェンコと比べても同じことだ。
ア:過去の選手で芸術面において何らかの点で羽生より優れている選手を挙げるとすると、僕は正直に言ってヤグディンは選ばない。
マ:僕ならブラウニングを選ぶ。その上で議論する
ア:そう、ブラウニングなら僕も分かる。勿論、議論しなければならない。
なぜなら、ブラウニングは当時、芸術性において最も傑出していた選手だからだ。
当然、当時の採点システムは現在とは全く異なることを考慮しなければならない。
芸術面において当時の最高評価を獲得したアーティストで偉大なジャンパーだった。
ジャンプについては常に安定していた訳ではなったけれど、素晴らしいトリプルアクセル、それにブラウニングが公式大会で史上初めて4トゥループを着氷した選手だということも忘れてはならない。
だから偉大なジャンパーでもあった。
プルシェンコはジャンプの才能と技術においては史上最高の選手だった。このことに疑問の余地はない。羽生が跳んでいないジャンプ(これは現在の採点システムでは跳ぶ意味がないからだけれど)、例えば4T/3T/3Tとか、羽生が跳ぶ3A/1Lo/3Sより更に難しい3A/1Lo/ 3Fのコンビネーションジャンプを跳んでいた。
ただプルシェンコには2種類目の4回転ジャンプがなかった。
4サルコウは(試合では)1度も決めたことがなかった。
マ:つまり今の羽生結弦と比較出来る選手を見つけるのは容易なことではないと言うことだ。
4ループは彼にとってたまらない魅力だろう。羽生が何時このジャンプをプログラムに入れるか見守りたいが、おそらく来シーズンになるだろう。
でも、彼の4Loのクオリティを見ていると、何故まだプログラムに入れないのか正直分からない。
最近の彼は何が変わったのか?
4サルコウが4トゥループと同じぐらい安定したと言うことだ。
今では簡単に軽々と決めることが出来る。
最近は試合でも公式練習でも彼が4サルコウを失敗するのを見たことがない。
トゥループは練習で時々パンクすることがあるけれど、サルコウは彼にとって非常に平凡なジャンプになった。10.50点の価値がある4回転ジャンプがだ。
ア:これが、彼が簡単に自然にジャンプを実施することが出来る要因なのだ。現在、僕達が言うところの卓越した選手達が3~4人いる。そして各時代から最高のジャンパー、最高のアーティスト、最高の表現者を10人ずつ選んで比較したとしても、羽生はエレメンツの質、それらをいとも簡単に軽々とこなすナチュラルさ、完成形という点において比類がない。
そして3種類目の4回転ジャンプ、4ループが入ればまた記録を更新するだろう。
まだ誰も決めたことがないこのジャンプには、羽生の野心を刺激する多くの理由がある。
マ:彼の野心はもうひとつある。
350点だ。
ア:(爆笑)
マ:冗談じゃないよ。僕は真剣だ。
今回、羽生は330点を少し超えただけだった。
ア:それはまずい、まずいよ、結弦!!!(笑)
マ:その通り、彼ならもっと出来たはずだ(笑)
ア:全くだ
マ:前半・後半に各エレメンツが配分された現在の彼のプログラム構成で獲得可能な最高得点は339.44点。
(満点達成まで)それほど遠くはない。
もし4ループを入れて、GOE+3が付くクオリティで決めれば、350点近い得点が出る。
いや、おそらく350点にはまだ数点足りないかもしれない。
350点を獲得するためにはまだ何か発案しなければならないかもしれない(笑)
演技構成点は勿論、全項目10点満点。
バルセロナで演技構成点100点満点が出ていても、誰も批判しなかっただろう。
だって一番低い点がTransitionだった。これは議論すべきだろう。
どうやったらトランジションをこれ以上改善出来るのか誰か説明して欲しいね。
ア:現在、彼より繋ぎの濃いプログラムを滑る選手は誰も思い浮かばない。
特にショート。他の選手達とは勝負にすらならない。
彼が実行する、誰も思いつきもしなかったような難度の高いプログラム、エレメンツのクオリティは彼にしか出来ないものだ。
他の選手達、それも普通の選手じゃない、この競技のトップクラスの選手達でさえこれらの高難度ジャンプを跳ぶのに助走を必要とするが、彼はそうじゃない。
フリーはより長いので、トランジションはショートに比べると少しシンプルだが、だからといって繋ぎが薄いプログラムという訳ではない。いずれにしても他のどの選手より繋ぎが豊かなプログラムだ。
僕は既にこれほど高難度なプログラムのこれ以上どこをどう改善したらいいのか正直分からない。
羽生が3回転ジャンプだけのプログラムにすれば、もっと繋ぎの濃いプログラムを滑れるのかもしれない。
でもそうしたら、まだ改善の余地があるという論理的な理由から10点満点は与えるべきではないという結論に達する。
マ:つまり旧採点システム時代、6点満点は与えるべきでなかったということになる。
でも、実際には多くの6.0を獲得したプログラムがあった。
いずれにしても、僕はバルセロナにおける彼の演技は演技構成点で100点満点を出す絶好のチャンスだったと思う。
このような演技に対しての100点満点は意義を持つ、ある種の象徴になったと思う。
改善の余地を残すという意味で100点満点は出さないという方針なら仕方がないけれど。
でも今後、Transitionで10点、いや9.50を出すのも困難になる。
だって羽生結弦を基準にしたら、どの選手も繋ぎが彼より薄いからだ。
ア:その通り。
以前のポッドキャストで僕達は結弦とパトリック・チャンのTransitionのコンセプトの違いについて議論した。彼らの『繋ぎ』における解釈の違いを考慮しても、今大会で可哀想な結弦のTransitionが9.25だったことを考えると、これ以上の得点を他の選手に与えることは今後、ますます困難になると思う。言っておくけれど9.25は一般的には高得点だ。
マ:議論の余地のある評価だね。
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☆世界中の解説者をことごとくオトン化/オカン化してしまう羽生君のこの不思議な才能は一体何なんでしょう?
昌磨君とかボーヤン選手に対しては、年はもっと若いのにこうはならない