書店を経営するライター、マルティーナ・フランマルティーノさんのブログSportlandiaから。
ジャッジに関する非常に興味深い分析記事です。
マルティーナ・フランマルティーノ著
2020年7月29日
本当は私にはやらなければならないことが他にあるのです。幾つかの締め切りが数日後に迫っています・・・
ところが、私ときたら数字に没頭しています。
私が考えているジャッジは他にも数人かいます。何人かについては既に作業を始めていましたが、私の時間には限りがあります。
ミスがないことを願っていますが、これほど膨大な量の数字を扱うと、打ち間違いのリスクは高くなります。
もしミスに気づいたら、どうか私に知らせて下さい。
そうすれば、原文ファイルを修正し、画像を置き換えられます。
それでは少し過去に遡りましょう:
平昌オリンピックです。
男子は羽生結弦、女子はアリーナ・ザギトワ、ペアはアリオナ・サフチェンコ/ブルーノ・マッソー、アイスダンスはテッサ・バーチュ/スコット・モイアが金メダルを獲得しました。
全てが平穏でしたか?
そうでもありませんでした。
2人の中国人ジャッジがナショナルバイアスで資格停止処分を受けました。
ナショナルバイアスとは、自国の選手に他のジャッジと比べて極端に高い得点を与え、逆に直接のライバル選手を極端に低く採点することです。
男子シングルのジャッジを務めたチェン・ウェイグアンに関する公式文書はこちらです:
https://www.isu.org/figure-skating/rules/fsk-communications/17361-case-2018-06-isu-vs-chen/file
ペアのジャッジを務めたフアン・フェンに関する公式文書はこちらです:
https://www.isu.org/figure-skating/rules/fsk-communications/17359-case-2018-02-isu-vs-huang/file
採点内容が懸念を引き起こし、懲戒処分を受けたジャッジは、私が知る限り彼らだけです。
しかしながら、2002年に起こった不正ジャッジの渦中人物であったディディエ・ゲヤゲが、2016年にはISU会長に選出されそうになった事実を考慮すると、ISUの懲戒処分が真剣なものとは思えません。ですから懲戒処分が何だというのでしょう?
確かに中国ジャッジは自国の選手を贔屓採点しました。でも彼らだけだったでしょうか? 私には贔屓がいます。それは認めます。
従って、全てをチェックする時間はありませんので、自分に興味のあること部分だけをチェックしました。
今回、私は中国ジャッジの得点をチェックし、平均からどれほど乖離しているかを調べ、彼らの異常な得点とアメリカジャッジ、ローリー・パーカーの得点を比較して、パーカーの得点も異常と見なすことが出来るかどうか調べました。
その結果は以下の通りです:
ペアの試合
最後の列はフアンが他のジャッジ達の平均値からどれほど乖離していたかを示しています。
フアンはショートとフリー両方のジャッジを務めました。平均と大きな差があり、ナショナルバイアスを行ったと見なされ、資格停止処分を受けました。
男子の試合
下の表の一番幅の広い列はショートとフリーの両方を採点した中国ジャッジ、チェン・ウェイグアンの得点が他のジャッジの平均からどれほど乖離しているかを示しています。
Chenはナショナルバイアスによって資格停止処分を受けました。
最後の列はフリーのみを採点したアメリカのローリー・パーカーの得点と平均との差です。
パーカーに対しては何の処分も行われませんでした。
イタリア語が分からない人でも、中国ジャッジの得点の異常さ(彼らは資格停止処分になりました)は明らかでしょう。一方、パーカーが何の処分も受けなかったことを留意して下さい。
男子の試合における中国ジャッジは確かに恥知らずでした。表で示した数字は1人のジャッジの得点と選手が試合で実際に獲得した得点の差です。
ジン・ボーヤンの+32.68は大差であり、ハビエル・エルナンデスまたは宇野昌磨のマイナスも考慮すると、ショートでは男子選手中、最高の技術点でした。
ペアの中国ジャッジはこれほど厚かましくはありませんでしたが、スイ/ハンを助けようとしたのは確かです。サフチェンコ/マッソーは彼の得点226.90なら銅メダルに甘んじるところでした。
下の表で私はチェン・ウェイグアンの得点だけでなく、ローリー・パーカーの得点もチェックしました。
彼女はチェンほど露骨ではありませんでしたが、フアンとほぼ同じことをやっています。
中国のジャッジ達が両方のプログラムを採点したのに対し、パーカーはフリーだけだったことも考慮しなければなりません。
何故、彼女は資格停止処分にならなかったのでしょうか?
試合の公式プロトコルはこちらからご覧になれます:
http://www.isuresults.com/results/season1718/owg2018/
私は便宜上、SkatingScoresを活用しています。このサイトではジャッジをナンバー表示にせず、国籍を明記してくれていますから、ジャッジの国籍別に合計を出し、面白い比較をすることが出来ました:
幾つかの興味深いデータ:
パーカーの評価によれば、フリーでは羽生はチェン、宇野、ジョウ、フェルナンデスに次ぐ5位でした。
ジョウの表彰台を仮定したのは彼女だけです(スモールメダルが授与されるのは世界選手権と四大陸だけです)。一体何故だと思いますか?
中国ジャッジは羽生を3位に位置づけましたが、前述した彼らの採点を考慮すれば驚くことではありません。
時間が出来たらラトビアのジャッジ、アギタ・アベレも調べる必要があると思っています。
アべレは宇野(ジャンプのREPはありませんでしたが、冒頭の4回転ジャンプで転倒)を1位にしました。
アべレの採点歴にざっと目を通すと、今シーズンのスケートカナダで羽生に最も厳しかったジャッジであり、2017年ロステレコム杯において彼に最も低い得点を出したジャッジの一人です(彼女より低くかったのはダグ・ウィリアムスだけでした。彼についても私は既に調査を開始しています)。
技術点だけ見ても、パーカーは羽生(クワド4本で内1本がREP、3アクセル1本)にチェン(クワド6本で内1本がGOEマイナス、3アクセル1本)、ジョウ(クワド5本で内1本がエッジエラー、1本が回転不足、3アクセル1本でGOEマイナス)、宇野(クワド4本で内1本転倒GOEマイナス)、ジン(クワド4本で内1本転倒、3アクセル2本)、フェルナンデス(クワド2本、3アクセル2本)より低い得点を与えていました。
演技構成点を見ると、6人のジャッジが羽生に最も高い得点を与えており、3人のジャッジ(パーカー、アべレ、イスラエルのアルバート・ザイドマン)はフェルナンデスに最も高い得点を与えていました。
実際の演技構成点では羽生は96.62、チェンは87.44でその差は9.18点でした。
しかし、パーカーは羽生に94.50点、チェンに93.50を与えており、僅か1点差です。
私は冒頭で数字に没頭していると言いましたね?
点差が通常の変動、個々のジャッジの主観で片づけられる範囲内か、あるいは露骨な偏向採点の域に入るのか?
パーカーについては偏向採点と言うことが出来ます。彼女の点差はISU公認ジャッジの点差の許容範囲を超えています。
私は平均よりショートで1.5点、フリーで4点、合計4.5点以上の差を過剰な乖離と設定しました。
2011年以降のフィギュアスケートの試合の結果(アイスダンスは余りにも内容が異なるので除外しましたが、それでも幾つかの数字で遊んでみました)を分析すると、この許容範囲はジャッジにとって決して狭すぎることはないと思います。
オリンピックまでの4年間を1サイクルとして最近の3サイクルについて、優勝者が4.5点低い得点を獲得したと仮定した場合、メダルの色が変わったケースが何件あったのか調べてみました。更にメダルを獲得した選手から4.5点引き、そのすぐ下の順位だった選手に4.5点を追加してみると、結果が変わった件数は更に増加します。
上の表は世界選手権とオリンピックの結果のみをまとめています。
最初の数字は個々の選手が獲得した得点、2つ目の数字はその選手とすぐ下の順位の選手との点差です。
99個中38個のメダル、つまり38%のケースで4.5点差によってメダルの色が変化した、あるは4位だった選手が銅メダル、またはその逆だったことが分かります。
点差を9点に広げると65個のメダル、つまり66%のメダリストが変わったと仮定出来ます。
男子より得点差の少ない女子とペアではこの点差を低く設定してシミュレーションしました。
私は平昌オリンピックの男子シングルの得点の詳細も調べました。
特に寛大だった得点は黄色、特に厳し目だった得点は赤色のマーカーで強調しました。
正確には、ショートしか評価しなかったジャッジの平均に対して1.5点差、フリーしか評価しなかったジャッジの平均に対して3点差、両方のプログラムを評価したジャッジの平均に対して4.5点差までのケースは許容範囲と見なし、ジャッジの主観の余地を残しました。
フランスジャッジが羽生に与えた0.18は厳しい採点だと私は思います。何故なら、フィリップ・メリゲは全体的に平均より1.93高めの得点を出しているからです。つまり平均との差が+0.43以下というのは彼の基準では厳しい採点ということになります。
スペインのダニエル・デルファの場合、全体的に平均より0.96低かったので、0.54以下の得点は厳し目ということになります。
太字はその選手と同国のジャッジの採点です。
計算し易くするために、フリーに進出しなかった5人の選手の得点は考慮しませんでした。
表には入れましたが、平均には入れませんでした(これだけの数字でも私は既に膨大な時間を費やしましたから)。
多くの得点がマーカーで強調されましたが、選手達はジャッジに与えられる数字によってキャリアを積んでいくのですから、ある程度の精度が望まれます。
ジャッジが利用する技術ツールなどのテクノロジーをアップグレードし、露骨な贔屓を行ったジャッジの資格を停止することは、ジャッジング改善の第一歩になるのではないでしょうか。
謎採点はメダル圏内だけでなく、全てのレベルに存在します。
ショートプログラムを例に取ってみましょう。
下の2つのスクリーンショットをご覧下さい。
マッテオ・リッツォはショート23位でフリーに進出しました。
得点には多少の変動があります。あるジャッジは少し高め、あるジャッジは少し低目の点を出していますが、9人中8人のジャッジにとってリッツォはフリー進出でした。
例外はフランスジャッジだけで、26位でフリーに進出出来なかったフランスのシャフィク・ベセギエより低い25位の得点をリッツォに与えています。
これはただの偶然でしょうか?
本来ならジャッジ全員について調べる必要がありますが、残念ながら私には自分の人生があり、2人の子供があり、仕事があり、非常に忙しいのです・・・
それでも、幾つかの調査は行いました。
例えば2016-2017年シーズン以降、ローリー・パーカーが採点した全ての試合を調べ、各選手にどのような得点を与えていたか理解しました。
パーカーはオリンピック以降、国際大会のジャッジは行っていません。アメリカのローカル大会でのみジャッジを務めています。
今後、彼女の名前が国際大会のジャッジパネルに表記されるのを二度と見ずに済むことを心底願っています。
以下はここ2シーズンおいて彼女が出した得点です。
妙な得点と同国選手への得点はマーカーで強調しました:
21試合でアメリカ選手を採点しており、2017年中国杯のヴィセント・ジョウ以外、彼女が同国選手に出した得点は常に平均を上回っており、特に17試合では過剰に寛大な得点を与えています。
その一方でアメリカ選手の直接のライバル選手はほぼ毎回、極端に厳しく採点しています。
2016年グランプリファイナルを見ると、他のジャッジ達は平均して羽生とチェンに10点差を付けていますが、パーカーの採点では1点しか差がありません。
ジュニアの試合を見ると、アレクセイ・クラスノジョンに平均より16点も高い得点を与えており、彼女の採点ではロシアのロマン・サヴォシンを上回って4位でした。
2017年四大陸選手権で3.76点だった羽生とチェンの点差は、彼女の採点では14.48点でした。ジェイソン・ブラウンも寛大な得点をもらっていますが、順位はそのままでした。一方、ホッホシュタインは9位ではなく8位の得点でした。
2017年ロステレコム杯
チェンと羽生の点差は露骨で、実際の点差3.02が10.52まで膨れ上がっています。羽生は常にこのジャッジから酷い扱いを受けていますが、これは偶然でしょうか。
またホッホシュタインはロシアのアンドレイ・ラズキンとカザフスタンのデニス・テンを上回り2つ上の順位でした。
女子でも妙な得点が幾つかありましたが、長洲未来がロシアのワレリヤ・ミハイロワとカザフスタンのエリザベート・トゥルシンバエワを上回る得点をもらっていたことだけ言及するに留めます。
ペアではカステッリ/トランにオーストリアのツィーグラー/キーフェルを上回る得点を与えていました。
2017年中国杯
パーカーの採点では銀メダルは中国のジン・ボーヤンではなく、アメリカのマックス・アーロンでした。
それどころか、彼女の採点ではジン・ボーヤンをもう少しでヴィンセント・ジョウにも抜かれるところでした。
どういう訳か、彼女はヴィンセント・ジョウに対してはいつも控え目であまり盛っていません。他のアメリカ選手に対してはいつも安定の爆盛です。
平昌オリンピック団体戦ではパーカーはチェンにカナダのパトリック・チャンより高い得点を与えていました。一方、フリーではアダム・リッポンにチャンとロシアのミハイル・コリヤダより高い得点を与えていました。
団体戦は最初からカナダ、ロシア(正確には別の名前で出場していましたが)、アメリカの3カ国によるメダル争いでした。
最後に男子フリーについて:
チェンが1位だったのは皆納得していますが、これほどの点差に相応しかったでしょうか?
2位の宇野とほぼ23点差でした。3位ジョウ(彼女の採点ではフリーで3つも順位を上げていました)、4位フェルナンデス、5位羽生、6位ジン、7位アダム・リッポン(ジャッジの平均評価ではフリー10位でした)。
今日はこの辺りで止めておきます。
既に準備の出来ている写真を数枚投稿し、何行かキャプションを加えるつもりでしたが・・・
いつものことですが、私は書き過ぎるのです。
◆マルティーナさんのブログの表をクリックすると拡大版が見られます。
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☆今週はバカンスでトスカーナ地方に行っていました。
バカンスなんて本当に久しぶりなので、完全にオフモードにしようと、PCは持参せず、スマホも時々メールをチェックする以外、極力見ないようにしていたのですが、マルティーナさんから「前に話していたジャッジ関連の記事を書き上げて投稿したわよ」というメッセージが!
実は10日ほど前、彼女のブログの陰陽師の記事を翻訳した時、ちょうどバカンス中だったマルティーナさんから「次は特定のジャッジの採点統計をまとめた記事を書こうと思っていて、今構想を練っているの。バカンスから戻ったらすぐに取り掛かるつもり」と聞いてはいたのですが・・・
え?もう書き上げたの?早くない???と早速彼女のブログをチェックしてみたら論文のような長文記事の2本立て!(バカンスから帰ってみたら更に増えて3本になっていました!😱)
本業も非常に忙しい方なのに、この短期間にこれほど大量のデータを集め、計算・分析・整理し、表を作成し、明確かつ論理的な考察記事をまとめ上げる能力と情熱にはただただ脱帽です。
でも、マルティーナさんに限らず、イタリア人(少なくとも私の周りでは)は全体的に論文が得意な人が多く、例えば日本の場合、企画書とか技術文書というと、箇条書きや表を多用してなるべく分かりやすく簡潔にまとめる傾向にありますが、彼らは美辞麗句を駆使しながら、同時に非常に論理的な長い長い文章を書くのです(無論、必要な図面や表は挿入しますが)。
しかも、その文章と内容の仕上がりがあまりにも見事で、技術文書であっても読んでいて感動を覚えることすらあります。
そして、そのような論文や文書に遭遇する度に「さすがダンテ・アリギエーリを生んだ国」と感心させられるのです。
この記事はマルティーナさんにとってほんの小手調べだそうです。
そして全ての分析が完了したら、英訳版レポートを国際オリンピック委員会にも送付するつもりだそうです。