女子ショートの製氷中や6分間練習中にマッシミリアーノさん達が繰り広げていた新ルールの問題点や女子シングルの展望についての特論が面白かったので、抜粋・要約してみました。
実況:マッシミリアーノ・アンベージ(M)
解説:アンジェロ・ドルフィーニ(A)(テクニカルスペシャリスト)
M:僕達は新ルールが技術点、テクニカルコンポーネンツと演技構成点、プログラムコンポーネンツの均衡化を支援しているか否かについて議論していた。
僕達はどこに異論を唱えているのか?
つまり、フリーに進める上位24人を決める際、技術点より演技構成点にアドバンテージがあるかどうか?
フリーで見たいのは、滑りの上手い選手か?それとも下手くそなクロスオーバーばかりで、流れのないジャンプを跳ぶけれど、ジャンプ要素の基礎点を確実に持ち帰れる選手なのか?
僕は前者が見たい
A:政治的な選択肢に直面しているのは明らかだ。
政治的というのは、つまりこの競技で何を見たいのか、フィギュアスケートというスポーツをどのような方向に向かって行かせたいのか、その方向性の選択だ。
幸運なことに、世界のトップレベルの選手達は高難度のジャンプ構成と、豊かで複雑なよりコンプリートなフィギュアスケートを融合させることが出来から、演技構成点でも高得点を獲得することが出来る。
でももっと下位の選手達については、滑りは稚拙だけれど、ジャンプを跳べる純粋なジャンパーか、ジャンプでは苦戦しているけれどフィギュアスケートと言う点においてより複雑でコンプリートなことを行っている選手かどちらを優先するのか決めなければならない。
M:結論は何か?
クワドのフィギュアスケートはトリプルのフィギュアスケートと共存することは可能だ。
でもそのためには2つの得点、TESとPCSのウエートが同じであること必要不可欠になる。
A:そして正しく評価されなければならない(笑)
M:そして演技構成点がどのように採点されるべきか理解されなければならない。
A:その通り
全員の得点を引き上げ、差をつけなかったら意味がない。
M:今、特別な時期にあるこの競技の採点に信頼性を与えられる措置については僕達は過去に何度も説明している。
A:こうすれば2つの得点の間に均衡を与えることが出来るし、そうするべきだと思う。
M:ルールと言う点においてショートプログラムを分析すると、ルール変更前とほとんど何も変わっていない。
これは重大なミスだ。
何故なら、ISUがこの競技で何が起こっているか何も理解していないことを物語っているからだ。
何故だか説明しよう。
現在、女子シングルのショートで3アクセルを跳ぶ選手が存在する
3ルッツ/3ループをプログラム後半に跳ぶ選手が存在する。
昨年の五輪女王がそうだった。
3フリップはずっと前から皆が跳んでいるジャンプだ。
つまり、今後これら全てのジャンプ要素(3A、3F/3Lz-3Lo)をショートプログラムで実施出来る選手が現れても不思議ではない。
新ルールではスピン/ステップが全てレベル4で、全ての要素のGOEが+5だったと仮定した場合、この構成で到達可能なショートの技術点満点は54.73点だ。
でも演技構成点で到達可能な満点は40点だ。
本来ならPCSの満点を55点に設定すべきだった。
これなら技術点の満点54.73と均衡が取れる
この春、ルールは改正されたけれど、こうしたことは考慮されなかった。
僕はこの罪は重いと思う。
何故ならルール改正に携わった人々がこの競技で起こっている変化を全く理解していなかったということになるからだ。
女子はショートに4回転ジャンプを入れることが出来ないからクワドは関係ない。
要は技術点と芸術面を評価する演技構成点のバランスの問題だ。
<製氷中に昨季欧州選手権のアリーナ・ザギトワのフリー演技を放送>
A:プログラムの構成が非常に特殊なことが分かる。
彼女のこのプログラム構成は後半ジャンプのボーナスに関するルール変更のきっかけになった。
今シーズンから後半にジャンプを固めることが出来なくなった。
正確に言うと今でも勿論、ジャンプを全部後半に跳ぶことは出来るけれど、ボーナス対象になるのはショートでは最後のジャンプ要素だけ、フリーでは最後の3本のジャンプ要素だけになった。
でも今僕達が見ているプログラムはジャンプを全て後半に固めた構成で、昨シーズンのルールでは全てのジャンプ要素でボーナスを得ることが出来た。
M:でもこのルール変更はザギトワにとっては幸運だった。
勿論、ザギトワだけでなく、他の女子選手達にとっても
なぜなら、競技人生を延ばすことが可能になったからだ。
A:同国の若いライバル達に比べてね
M:ジャンプ要素を全て後半に固めたプログラムを継続することは、今の彼女には厳しいだろう。彼女だけでなく、メドヴェデワにとっても
でもこの欧州選手権は今のフィギュアスケート女子シングルを語る上で、あまり興味深い見本ではない。興味深い対決はジュニアのロシア女子で見ることが出来る。
選手同士の対決というより、部分的に異なるフィギュアスケートの2つのコンセプトの対決だ。
A:コストルナヤとトゥルソワだね。
M:一方はアリョーナ・コストルナヤ、コンプリートなスケーターだが4回転ジャンプはない。
今後、3アクセルを入れてくる可能性はあるけれど、現時点では一時保留にしている。
もう一方の代表はアレクサンドラ・トゥルソワだ
彼女は優れたスケーターだが、コンプリートパッケージと言う点ではコストルナヤに少し劣っている。
しかし、彼女には数種類の4回転ジャンプがある。
練習ではアクセルとループ以外の全ての4回転ジャンプを着氷している。
どちらの道が正しいか決めるのは僕達ではない。
競技スポーツでは、勝利をもたらす道が正しい道ということになる。
A:採点競技であるフィギュアスケートではより多くの点を稼げる方ということになるね。
M:そして先ほどの議論に戻るけれど、いずれにしても2つの得点が、同じウエートで同じ可能性を提供出来なければならない。
例えばフリーのTES満点で120点に到達出来るなら、PCSの満点も120点でなければならない。
もしそうなら、トゥルソワとコストルナヤの対決はより興味深いものになる。
でもそうでなければ、今日のこのルールでは、トゥルソワが全てのジャンプを降りたら、彼女が勝つ。なす術はない。
繰り返すけれど、トゥルソワは決してジャンプだけの選手ではなく、コンプリートなスケーターだ。
A:勿論、トゥルソワはよりリスクを冒す。
でも現行のルールではコストルナヤの勝利は彼女次第ではない。
完璧に滑った上で、彼女より高難度のプログラムを滑る選手達のミスを待たなければならない。
M:ロシア選手権では五輪女王はこれらのジュニア選手達に大差で敗れた。
1位はサプライズでシュルバコワだった。
A:トゥルソワと同じ道を歩んでいる選手だ
M:でもロシア選手権の得点を分析すると、コルトルナヤがもし完璧ならシュルバコワに勝っていたかもしれないと仮定出来る。
コストルナヤはショートでミスし、トゥルソワはフリーの複数のジャンプでミスがあった。だから2本のプログラムをクリーンに滑ったシュルバコワが優勝に相応しかった。
でもノーミスのコストルナヤは、ノーミスのシュルバコワを上回るべきだ。
A:でも現在のルールでは難しい。
<女子ショート最終グループの6分間練習>
M:今シーズンのアリーナ・ザギトワはグランプリ大会で2勝したが、ファイナルでは日本の紀平に完敗し、ロシア選手権でも不調だった。
ショートは首位だったが、フリーではミスを連発し、前述の3人のジュニア選手、シュルバコワ、コストルナヤ、トゥルソワに完敗した。
ロシア選手権における敗北がザギトワの今後の演技にどんな影響を与えるか見なければならない。
五輪女王が翌シーズンの欧州選手権に出場すること自体、驚異的なことなのだ。
でもこれほど栄誉ある勝利(五輪金メダル)の後で、大会に出場し続けることは簡単なことではない。
勿論、ザギトワはまだ若いし、今大会の出場選手の中でも最も若いスケーターの一人だ。
彼女が4回転ジャンプを練習している動画を見たけれど、僕の見方で完成にはほど遠いし、これは今現在の彼女にとって正しい道ではないと思う。
彼女がやるべきことは各要素のクオリティを磨き、完成度を高めることで、演技構成点で満点に近づくことだ。
4回転で年下の選手達に対抗することは、白旗を上げることを意味している。
問題は何か?
先シーズンのザギトワは自分の運命を自分で握っていた。
つまり、全てのジャンプを降りたら、試合に勝つことが出来た。
でも今年はそうではなくなった。
欧州選手権では強力なライバルはいないけれど、世界選手権ではジャンプが全て決まっても勝てるかどうか分からない。
何故ならベストの紀平はより多くの得点を握っているからだ。
A:ロシア選手権でも同じことが起こった。
ロシア選手権では2人、または3人の選手がノーミスの彼女を上回れる得点を握っていた。
M:僕は五輪女王をリスペクトしているけれど、コストルナヤはコンプリートと言う点においてザギトワを断然上回っている。
ロシアに限らず日本の選手と比較しても、コストルナヤは何が特別なのか?
スケーティングのクオリティにおいて圧倒的に優れている。
もしかしたら宮原が対抗出来るかもしれないが、議論しなければならない。
A:演技構成点の全てではなく、幾つかの項目においてね。
M:磨き上げられ、5キロ痩せた樋口ならスケーティングスキルでコストルナヤに対抗出来るかもしれない。
A:宮原はSS以外の項目でコストルナヤに対抗できるし、豊かな経験によって幾つかの項目で彼女を上回れるかもしれない。
M:いずれにしても、ザギトワが生き残るための鍵は演技構成点だ。
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☆TESとPCSの均衡についてのマッシミリアーノさん達の議論は、ショートの点差が10点もあったにも拘わらず、一糸の乱れもない完璧なフリーを滑ったコストルナヤがクワド2本を跳んだトゥルソワに敗れた先日のロシア・ジュニア選手権の結果が象徴しています(トゥルソワはコンプリートな選手で、繋ぎの濃度や難度においてコストルナヤに次ぐ高難度のプログラムを滑っているけれど、総合的な「芸術性」と言う点においてコストルナヤの方が断然優れていたし、完成度も高かった)。
確かにTESとPCSのウエートにも問題があると思いますが、一番の問題は特に男子の場合、複数クワドを含む全てのジャンプが決まると、元来の評価基準に関係なくPCSの5項目全てで自動的に高得点を与えてしまうジャッジだと思います。
ユーロではサマリンのPCSをアンジェロさんが手厳しく批判していましたが、イタリアのスポーツメディアOA Sportは昨晩行われた四大陸選手権男子ショートでヴィンセント・ジョウ選手が獲得したPCS42.25について「控えめに言って過剰な高得点」とこき下ろしていました。
ショートでクワドを2本決めたらPCS42点をあげるという決まりでもあるのでしょうか???
試合がイタリア時間の深夜だったこともあり、ユロスポチャンネルでは解説無しバージョンしか放送されませんでしたが、アンジェロさんはまた怒ってそう😨・・・(マッシミリアーノさんはFBのタイムラインで男子の上位16人が全員ステップシークエンスでレベル4を獲得するという普通ではあり得ない評価に言及しています。イタリアのスケートファンはコントロールパネルは真面目に仕事をしていたのかとw)
ユーロのサマリンについて言えば、クワド2本を含むジャンプを全て降り、大きなミスのない良い演技だったので、Performanceが高得点なのは理解できますが、Skating SkillsやTransitionsで客観的に見て明らかに彼より優れているケヴィン・エイモズやマッテオ・リッツォより高得点というのはあり得ないし、四大陸ショートのヴィンセント・ジョウのSS、TR、INがジェーソン・ブラウンと小数点しか違わないプロトコルを見ると・・・
5コンポーネンツとは?
PCSを5項目に細分化した意味とは?
と問いたくなります。
昨シーズンのポッドキャストでマッシミリアーノさんが「メドヴェデワのSSがカロリーナ・コストナーより高得点というのはあり得ない、逆にTRではカロリーナはメドヴェデワより4点低くてもいい。つまり選手のスペックによって5項目の各得点にもっとばらつきがあるべきだ」と言っていましたが、ジャンプが全部成功したからと言って、5項目全てが自動的に上昇するのでは、「芸術点」と一括りにしていた6点満点の旧採点システムと変わらない。
特に難しいステップからジャンプを跳び、トランジションを豊富に入れている選手は、長い助走からジャンプを跳び、クロスオーバーで漕いでばかりいる選手より失敗のリスクが高く、体力の消耗も激しいプログラムに敢えて挑戦しているわけですから、ジャンプの可否に関係なく演技構成点のSSとTRの評価で然るべき差を付けて欲しいです。