ストックホルム世界選手権で印象的に残ったことの一つが三浦/木原組の演技でした。
昨シーズンに比べて驚異的な進化を遂げていてびっくりしました。
イタリア解説も大絶賛だったので、ショートとフリーの解説から印象的な部分を抜粋してご紹介します。
三浦璃来/木原龍一
<ショートプログラム>
実況:
マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユロスポ解説者/冬季競技専門ジャーナリスト
解説:ヴァレンティーナ・マルケイ(V)元女子シングル/ペア選手
M:次は日本のペア
三浦璃来/木原龍一
何よりも2人は優れたシングルスケーターだった
V:私はデトロイトで龍一と一緒にトレーニングしていたわ
彼は当時、ソチ五輪に向けてデトロイトで準備していた私のコーチだったジェイソン・ダンジェンと佐藤有香の元でペアの練習を始めたから
だから彼のことはシングル時代からよく覚えているわ
とても強い選手だった。
V:3回転ツイストリフト
とても綺麗
V:ランジからリフトしてランジで締めくくるのは簡単なことではないわ。
男子スケーターにとってかなりハードなはず
V:3ルッツのスロージャンプ
(演技終了)
M:彼らは注目に値するペアだと言わなければならない。
シングル競技のエレメントをミスしたけど(笑)
それ以外では多くのクオリティがあった。
それにここまでに見た選手達とはスピードが全然違う
V:その通り。
エレメントに入っていく時のスケーティングでもエレメントの実施でも自信に漲っていたわ。
エレメントがやってくるのを待つのではなく、何のためらいもなく決然と攻めていく。
もの凄く上達したわ
M:正直言って僕は衝撃を受けたよ
クニエリム/フレイジャーに近い得点が出るだろう
ほぼ対等だろう
彼女の3トゥループの回転がどう判定されるか?
V:そうね。両足着氷だっただけではなく、私はすぐに回転が足りていないと思ったわ。
M:でも通常、ペアのテクニカルは少し寛大だよね
V:さあ、どうかしら?おそらくこの大会はそうね。
M:僕が思うにペアのSBSジャンプの回転はしばしば見逃されることが多い。
このことは回転に問題のなかった君とオンドレイにはあまり有利に働かなかったけれど
V:確かにそうね。それにたまに私達の回転に問題があった時は、ことごとく回転不足にされたわ(笑)
M:彼女はこの3ルッツのスロージャンプの後、解き放たれたね。
まるで解放されたように両腕を開いて、プログラム終盤はまさにギアチェンジした。
V:私はもの凄く気に入ったわ。
M:僕は昨シーズンの彼らの上達を良く覚えているけれど、今日の彼らはまさに別レベルのペアだ。ようやく日本にも有望なペアが現れた
V:彼らの演技にはまさにカナダの痕跡が見えるわ
カナダのエレガンス
そのクオリティからカナダの痕跡が伺える。
私達も特に最初の2年間は夏の間、カナダのまさにブルーノとリチャードの元で練習していたから。
彼らのペアにおけるスケーティングの指導方法は全く違っていたわ。
M:64.37
小数点差でクニエリム/フレイジャーには届かなかったけれど2位だ。
彼らは満足だろう。
ようやくキス&クライで嬉しそうな顔を見ることが出来た。
V:それに彼らはこの先ずっと戦っていける
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<フリー>
解説:
マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユロスポ解説者/冬季競技専門ジャーナリスト
ラファエラ・カッツァニーガ(R)振付師
M:3回転ツイストリフト
このエレメントで彼らは驚異的な進化を遂げた
M:非常に独特で難しい、素晴らしいトランジションから実施された3ルッツのスロージャンプ
R:彼らは素晴らしいスケーティングスキルを持っているわ
M:もともとシングルの選手だった2人がペアに転向した。
彼は大分前からペアの選手だけれど
R:何というリフト、何という難度でしょう!
独創的で見事だわ
(演技終了)
M:少し順位を落とすかもしれないけれど、傑出したプログラムだった
彼らはレベルアップした
今や彼らはより重要な順位を狙えるペアになった。
チャード・ゴルティエからブルーノ・マルコットに引き継がれたスクールは日本のペアを世界選手権の表彰台に送っている。ニースの世界選手権だった
この時はおそらくペアの平均レベルがあまり高くなかった。
しかし現在、世界のトップ10に入り、このようなプログラムを披露出来るということは、世界のどこでも通用するということだ。
R:この二人は飛躍的に成長したと思うわ。
素晴らしい成果、美しいペア、安定したスケーティング
既に驚異的な進化を遂げたけれど、これからも成長していくでしょう
M:トランジションがテンコ盛りのプログラムだ。
各エレメントの前に必ず何らかのトランジションが散りばめられている。
R:素晴らしいプログラムだったわ。
本当に素晴らしい
R:いずれにしてもこのペアは誰にとっても強力なライバルになっていくでしょう。
M:勿論だ。今後、彼らは成長していくばかりだ。
昨日と今日、彼女がミスしたエレメントは、本来彼らの得意技であることも忘れてはならない。
大きな失点は昨日も今日もSBSジャンプだった。
僕は3位だと思うけれど、得点を待とう
120.04で3位
総合もデッラ・モニカ/グアリーゼに次ぐ3位だ
☆世界選手権でも国別でも木原選手がずっと笑顔で心から嬉しそうに滑っているが印象的でした、木原君はシングル時代の全日本の演技も見ていますし、成美ちゃんや須崎選手と組んでいた頃の演技も見ていますが、こんな満面の笑顔は初めて見ました。リクちゃんと凄く相性がいいんだろうなあと思います。2人ともスケーティングが滑らかで、水を得た魚のように伸び伸びと滑っていて、見ていて幸せになれる演技でした。
このペアはもっともっと伸びますね。
日本はずっとペア競技が弱いと言われてきましたが、彼らには世界でもっと上位に食い込めるポテンシャルがあると思います。今後の活躍が楽しみです。
☆さて、何年か前から「サトコがペアに転向したら最強のペアスケーターになるのに」と事あるごとに言っているマッシさんですが、ショート解説の相方がシングルからペアに転向して成功したヴァレンティーナさんだったので、三浦/木原組の解説の後、早速「もしサトコがペアに転向したら・・・」と彼女の意見を伺っていましたw
ヴァレンティーナさんは「別カテゴリーに転向するのはそんなに単純なことではない」と言いますが、その彼女の話が興味深かったので訳したいと思います。
M:君に投げかけたいと思っていた質問はこれだ。
宮原知子がペアに転向したら上手くいくと思わない?
V:・・・・シングル選手の魂を持つ選手が、ペア選手の魂を持つのは難しい。
例えば、私はシングルからペアに転向したことで、私自身が変化したことに気付いたわ。
私には私の手をぎゅっと掴んで、引っ張ってくれる人が必要だった。
M:つまり終盤のキャリアを君と共に歩んでくれたホタレックを見つけたんだね。
V:その通り。
そして、何よりも彼は私をシングルの時より優れたスケーターにしてくれた。
彼と滑るようになって、私のスケーティングの質そのものが向上したのよ。
☆ヴァレンティーナさんのこの言葉を聞いてシングル時代の彼女に対する解説を思い出しました。
グランプリ大会だったか世界選手権だったかは忘れましたが、Rai Sportのアリアンナさんとフランカさんが「ヴァレンティーナはあまりにも勝気で、ライバルに対して敵対心を剥き出しにし過ぎる。そしてそのあまりにもアグレッシブな性格が競技で裏目に出ている。一方、カロリーナは心優しく誰に対しても親切で皆に愛されている。ヴァレンティーナはカロリーナの人間性を見習うべき」というようなことを言っていました。イタリア解説は自由だなあ・・・国営テレビの実況解説でこんなこと言っちゃっていいの?とちょっとびっくりしたものです。日本のテレビで試合の実況中に解説者が選手に性格について苦言したら大問題ですよね。
ヴァレンティーナさんとペアを組んだオンドレイ・ホタレック選手と言えば、平昌エキシのフィナーレで羽生君をリフトしてくれた選手です。
オリンピックの集合写真で一人だけ後ろ向きで顔が写らないというのに、裏方に徹してフィナーレの最後を盛り上げてくれました。
しかも事前にリハーサルまでして本番に備えてくれていたのです!
ホタレックさんは笑顔が温かい、見るからに優しそうな男性ですが、このエピソードからも凄くいい人だということが分かります。
シングル時代は少し尖っていたヴァレンティーナさんが、懐の大きなホタレックさんと組むことで角が取れて心に余裕が生まれ、ペア選手として開花していったのではないでしょうか。
マルケイ/ホタレック組の集大成と言えば平昌オリンピック団体戦のフリーの演技だと思います。
平昌の団体戦はイタリアのメディアや解説が「アメリカにメダルを取らせることが予め決まっていて、そのためにイタリアの選手達は得点を渋られ、一方アメリカの選手達には寛大な得点が贈られた」と激怒していた曰く付きの大会で、彼らの得点が発表された時、アンジェロさんは「(キスクラの)彼らは喜んでいるけれど、僕はもっと高い得点が出ると思った。あと数点は高い得点に値した」と言っていました。
とはいうものの、オリンピックというスケーターにとって最も大きな舞台で競技人生最高の演技が出来たのです。彼らにとっては有終の美を飾る大会になったのではないでしょうか(実際には、この後にミラノ世界選手権もありましたが)。
しかし、ヴァレンティーナさんとホタレックさんの戦歴を調べようとイタリア版ウィキペディアを見に行ったら、全然更新されていませんでした・・・(ヴァレンティーナさんは「経歴」の段落が2014年から2020年までワンシーズン扱いでひとまとめにされているし、ホタレックさんに至っては2015年までの情報しかありません)
羽生結弦ページを執筆している人とは別の人が執筆しているのか、編集者の情熱の差なのか・・・😅