前回の続き第6回から
ツイズル3Aの難しさ、そして4A習得との関連性についての議論が興味深かったのでその部分を抜粋・要約します。
Listen to “Kiss & Cry Reloaded – Puntata 6” on Spreaker.
出演者
フランチェスコ・パオーネ(司会)(F)
マッシミリアーノ・アンベージ(ジャーナリスト、冬季競技アナリスト)(M)
アンジェロ・ドルフィーニ(元ナショナルチャンピオン、国際テクニカルスペシャリスト)(A)
<ツイズル3Aの難しさと4Aとの関連性>
A:ツイヅルから3Aを跳ぶ難しさは、回転し続け、その延長上で同じ回転方向で3アクセルという高難度ジャンプの非常に激しい回転を実施しなければならないことだ。
だから卓越したコントロール能力が必要になる。
何故なら踏切直前まで回転し続け、一瞬身体を止めてから空中で3回転半回るために加速しなければならない。
つまり技術的な難しさは、ジャンプと同じ方向に回転し続けた後、踏み切る前に肩が回転してしまわないように練達した技術によって上半身を一瞬止めることだ。
M:このツイヅルからの3アクセルは羽生の進化の一つだ。
彼はこれまでにあらゆる要素からこのジャンプを跳んでいた。
スプレッドイーグル、バックカウンター、イナバウアーetc
このジャンプをあまりに簡単に跳べてしまうために前にあらゆる要素を挿入することが出来るこの選手の能力は驚異的だ。
A:彼は4アクセルの準備のためにより複雑で難しい入り方を追求している。
入りをより難しくすることで、3アクセルのコントロール能力を更に向上させることは、4アクセルの挑戦に必要な完璧なコントロール、完璧なリズム、感覚を習得するための熟達した道だ。
M:ここで使用された「コントロール」という言葉が大切だ。
どういう意味か?
4アクセルを跳ぶには高さが更に必要になる。
ジャンプがより高くなるとどうなるのか?
軸を維持できなくなる。
現在、羽生の3アクセルの高さは85 cmだ
85 cmだよ???
ジャンプが高くなればなるほど軸を取るのが難しくなる。
この入りによって羽生はこの要素を跳ぶのがより難しくなっている。
それでも+5を獲得出来るのだからこの選手が如何にハイレベルかが分かるだろう。
しかも彼は着氷後にもツイヅルを入れている。
A:ケーキの上のサクランボ(最後の仕上げ)だね(笑)
M:着氷後のツイヅルも過小評価してはならない
彼はジャンプの出でも様々なオプションを見せている
イーグル、ツイヅル
ハイキックまで
A:ソチ五輪のショートがそうだった
M:だからこの選手のバリエーションの多さは途方もない
だからツイヅルからの3アクセルはショートの曲想に合っているという理由だけでなく、彼が到達したいエレメント、4Aにたどり着くために全てが計算されているのだ。
彼は僅か数カ月の間に3アクセルの高さを70 cmから85 cmに上げた。
つまり20%高くなったことになる。
これは驚異的なことだ。
A:仰天させられる数値だ
M:だから今この瞬間、彼の頭の中に4アクセルがあるのは明白だ。
おそらく勝つためにはこのジャンプは必要ないだろう。
これは自分自身への挑戦だ
本質的に世界への挑戦、自然の法則に対する挑戦だ
A:おそらく自然の法則に対する挑戦だね(笑)
数シーズン前までは想像すら出来なかったジャンプだ
話をするだけでも何か驚異的なことだった。
でも彼のジャンプの高さが爆発的に高くなったことは驚異的だ。
彼の理論はこうなのだろう
まずトリプルで高さを上げ、もう1回転回れるスペースを作る。
高さ、滞空時間Yで安定してトリプルが跳べるようになったらもう1回転入れる。
単純な数学だ
滞空時間と回転速度から回転可能な回転数を算出出来る(爆笑)
数学と物理の簡単な理論だ
つまり自分の回転速度をXとして滞空時間/高さYが必要
この滞空時間/高さでトリプルを跳ぶ練習をする。
トリプルが安定して跳べるようになったら、もう1回転入れるスベースがあることを彼は知っている。
より高さを出すにはどうすればいいのか?
身体/筋肉の協調
腕、フリーレッグと氷上に付いた脚を同時に押す瞬発力と爆発力
この動きは高速度で爆発力を伴っていなければならず、全ての押す力がシンクロしている必要がある
このシンクロが上手くいかないと軸が曲がってしまう。
軸が曲がるとジャンプをコントロール出来なくなるか、コントロールにより大きな力を必要とする。
空中での回転数が多くなればなるほど、このズレが回転中に大きくなり、ダブルのように空中で修正できず転倒してしまうことになる。
<ステップからのジャンプについて>
P:ジャンプの前にステップを入れると失敗のリスクは高くなりますか?
M:この点についてISUはルールを変更した。
平昌オリンピックのシーズンまではステップ/振付要素からのソロジャンプはショートプログラムの必須要素だった。
問題は何か?
非常に難しい入りからジャンプを跳ぶ選手がいる一方で、ステップを何も入れずに跳んでいる選手にも同じような評価が与えられるようになった。
このような問題が発生し始めたのは、ソロジャンプで4回転ジャンプを跳ぶ選手が増え始めてからだ。
一方、女子のステップからのソロジャンプでは常に興味深い例を見ることが出来た。
この点において最高レベルに達したのが平昌オリンピックで、ザギトワ、メドヴェデワ、コストナー、坂本、宮原、オズモンド等の有力選手達は競って難しい入りからジャンプを跳んでいた。
特に3ループの入りはスペクタクルだった。
各自異なる入り方だったが、非常に難しい入りだった。
特に宮原の3ループの入りは難度において限界に近いものだった。
この大会をこの観点から着目すると、この競技の究極だったのではないかと思う。
しかし男子の傾向は全く違っていた。
羽生は狂気の沙汰のような入り方から跳んでいた。
彼はずっと前からあらゆる入り方を試していた。
パトリック・チャンも驚異的なスケーティングスキルによってエッジワークが自由自在だから、ジャンプの前に何か入れていた。
彼はコンビネーションの前にも何らかのステップを入れていたから、万が一セカンドジャンプが付けられなくてもソロジャンプとして高いGOEを獲得することが出来た。
この点においてパトリック・チャンはマエストロだ。
しかし問題はそれ以外の選手達だった。
オリンピックでは前に何も入っていないジャンプに+2が与えられていた。
結局、このルールは無駄だということになり、翌シーズンから「ステップから」という必須要件は廃止された。
A:ソロモン王の裁きだね(爆笑)
M:共感できない選択だけれど、そうなった。
ジャンプの前にステップを入れると当然跳ぶのがより難しくなる。
これについては議論の余地はない
だからこのようなジャンプはGOEだけでなくPCSでも評価しなければならない。
A:TRとSSの評価に反映されるべきだ
この点について僕達は何度も議論したし、何人かのジャッジはこのルールを適切に理解していないようだった。
評価するのは簡単なことではないが、ジャンプの前に何もなければ何もない。
一目瞭然だと思う(笑)
M:ルールではジャンプの2秒前にステップまたは振付要素を入れなければならなかったが、ジャンプからかなり離れたところにステップを入れている選手もいた。
そうなると評価は難しくなる。
結果的にこのルールを廃止し、ジャンプ前の工夫はGOEで評価されることになった。
A:残念ではあるけれど、議論の余地を減らすことになった。
実際、僕達は酷い例を幾つも見てきた。
50メートルの長い助走から実施されたジャンプにGOE+が付いているのを見て、僕はしばしば困惑させられていた。
ルールは機能していなかった。
結果、ルール自体が廃止されてしまった。
M:でもステップからのソロジャンプが好きな人は2018年平昌オリンピックの女子シングルを見て欲しい。
特に3ループの入りは各選手がそれぞれ異なる独創的な難しい入りから跳んでいてスペクタクルだった。
ループを跳んでいたのはメドヴェデワ、コストナー、坂本、宮原
A:ザギトワの3フリップの入りも美しかった
☆その他の印象的な部分を少し
<NHK杯の梨花ちゃんvsコストルナヤ>
M:このグランプリシリーズで最もハイレベルなクオリティvsクオリティの対決
共に演技とエレメンツのクオリティが高く、PCSで高得点を獲得できる。
今回はコストルナヤが勝ったが、紀平は足のケガで3ルッツが入れられないというハンデがあった
A:おそらくこの3ルッツが勝敗を分けた
<ロシア選手権>
M:僕はロシア選手権の女子の試合をイタリアから視聴できることを願っている。
間違いなく世界最高レベルの女子の試合。欧州選手権は勿論、世界選手権でさえロシア選手権のレベルには及ばない。
ここに紀平梨花がスペシャルゲストとして参加したら完璧だ。
<新葉ちゃんの3A>
M:エテリ・トゥトベリーゼ門下の少女達は他の選手達にもハードルを上げさせている。
4Tを練習しているトゥクタミシュワ
樋口も3Aの練習を再開し、成功させている。
樋口は並外れたスケーターだ。
スケーティングの質、滑らかさ、エッジの特性という点において彼女より優れた女子スケーターが何人いる?
A:おそらく誰もいない(笑)
M:だからもし彼女が復活すれば女子シングルは更に面白くなるだろう。
****************
☆4Aがジワジワと近づいてきているようでドキドキします!
85 cmって凄いですね!
思わず定規で確認しちゃいました!
しかもツイヅルから85cm跳び上がれるということは、普通の助走から跳んだら一体どんな高さなのか想像するだけで恐ろしいです!
OS Sportの記事で羽生君がグランプリ2戦4プログラムの合計スコアの記録を塗り替えたとありましたので、これまでの記録を調べてみました
<2018/2019年シーズン以降>
羽生結弦627・64(2019)
ネイサン・チェン586.25(2019)
羽生結弦575.54(2018)
ネイサン・チェン522.15(2018)
宇野昌磨553.70(2018)
<2017/2018年シーズン以前>
羽生結弦581.94(2015)
宇野昌磨574.41(2017)
ネイサン・チェン569.60(2017)
羽生結弦564.53(2016)
宇野昌磨564.42(2016)
旧ルールでも羽生君が1位なんですね。
この518.94点は初戦スケカナのショートでジャンプ要素が2つノーカンになってこの得点です(NHK杯322点の威力!)
昨シーズンもロシア大会は右足を負傷し痛み止めを飲み、即興構成を滑ったにも関わらずトータルで全選手中1位でした。
男子は羽生君とネイサンの一騎打ち
女子はロシア対梨花ちゃんという構図ですね
梨花ちゃんは目標を北京五輪に定め、それまでに3アクセルと4サルコウの入ったプログラムを完成させるという明確なビジョンを持っています。
まだ先は長いのですから、試合の度に4サルコウ、4サルコウと煽るのはやめてあげて欲しい。
今シーズンは左足首に痛みを抱えているのですから、無理をせず北京五輪という最終目標に向かって着実に駒を進めていって欲しいです。
個人的にトゥルソワとコストルナヤの演技構成点にどのぐらい差が付くか興味があります。