羽生結弦はアイドルではなくアスリート

羽生君が入籍を発表してから10日が経ちました。ファンにお知らせしてくれたとはいえ、プライベートなことですから、この話題にはもう触れないつもりでしたが、ここ数日間、様々な意見を見て、少し思うところがありましたので、ちょっと書いてみたいと思います。

まずショックを受けている人が多いことに驚きました。

彼を恋愛対象として見ている、いわゆるリアコとかガチ恋といわれる層が特定数いることは知っていましたが、そうだと全く自覚しておらず、入籍ニュースを知って大ショックを受けて、本気で恋していたことに気づいた人が多かったのでしょうか?

私は実生活で接点のない有名人に恋をする、いわゆる類似恋愛を経験したことがないので、彼の結婚にショックを受ける気持ちがイマイチ理解出来ないのですが、おそらく現実世界の失恋で味わう感情と同じなのでしょうね。それなら、気持ちの整理がつかない、彼を見るのが辛い、という気持ちは分かるような気がします。

しかし、この入籍を「裏切り」と受け止める人達がいることには心底ビックリしました。

彼が一体何をどう裏切ったというのでしょう???

大好きな有名人の結婚を「裏切り」と受け止める発想は、日本独特のアイドル文化が根底にあるような気がします。
私は昔から芸能人にも芸能界にも、そして勿論アイドルにも興味を持ったことは一度もありませんから詳しくは知りませんが、日本ではアイドルが結婚すると人気が暴落するために、所属タレントの結婚を禁じている芸能事務所もあるそうです。禁止とまで行かなくても、人気絶頂のアイドルは事務所に恋愛も結婚も管理されています。海外に住んでいる者からしたらちょっと異常に思えますが、ずっと清純でいて欲しい、誰のものにもなって欲しくない、というファンが多いから日本の芸能界にはこのような風潮があるのでしょう。

しかし、これは日本だけの風潮です。ハリウッドスターが事務所に結婚を禁じられている、ファンを気遣って結婚しない、という話は聞いたことがありません。無論、人気女優または俳優が婚約や結婚を発表すれば、ショックを受けるファンは大勢いるでしょうし、ファンをやめる人や、中には逆恨みして暴走する過激なファンもいるでしょう。しかし、だからと言ってファンを減らさないため、ファンを怒らせないために結婚せずにいる人はいないでしょう。独身を通しているハリウッドスターはいますが、それはその人個人の選択や事情であって、誰かに強制されている訳ではないと思います。イタリアの芸能界でもそんな話は聞いたことがありません。アモーレ(愛)の国イタリアで、芸能事務所が所属タレントの恋愛や結婚を禁止したりしたら、それこそ人権侵害だと糾弾されます。

スターの結婚にショックを受けて過激な行動に走る熱狂的なファンはどの国にもいますが、メディアに出ている部分だけでなく、私生活においても「ずっと清純でいて欲しい、誰のものにもなって欲しくない」を求める日本のアイドル文化はかなり特殊と云えます。

羽生君の入籍を「裏切り」だと感じる人達は、結局、彼をアイドルのようにしか見ていなかったのではないでしょうか。無論、彼のスケートも大好きで、評価していたとは思いますが、アイドルファンの感情のような気持ちの方が大きなウエートを占めていたのではないかと思います。

でも、羽生結弦はアイドルではありません。彼は自分のスケートを評価して欲しいと常々強調していますし、五輪金メダルで人気が爆発してアイドルのように扱われることに「ちょっと違う」と戸惑いを覚えたと発言しています。

こんなことを書くとアイドルファンに怒られそうですが、いわゆる芸能界のアイドルは、勿論、全員ではないですが、カワイイ~!カッコいい!で人気を得た人達であり、その人気のおかげで、あり得ないような歌唱力や演技力でもステージに立ち、ドラマや映画で主演出来ている彼らが、ファン離れを恐れて結婚しないのは理解出来ます(しかし、事務所が結婚を禁じるような風潮はおかしいと私は思います)。

しかし、羽生結弦は66年ぶりの五輪二連覇という圧倒的な実績と実力を誇る世界最高レベルのアスリートであり、彼の真価はスケートなのです。そしてその真価を磨き、常に最高の作品を観客に届けるために、日々、血のにじむような努力を続けています。外見も美しく、圧倒的なカリスマ性があったために、アイドル顔負けの人気を獲得しましたが、だからといって芸(演技力や歌唱力)よりも人気が命のアイドルに求めるようなことを、彼に求めるのは筋違いです。彼は自分のスケートは惜しみなく共有してくれますが、プライベートは彼だけのものです。奥さんのもの、というのも違うと思います。結婚したら誰かの所有物になるというのは、一体いつの時代の考え方でしょうか?

もう一つ驚いたのは、GIFTで「孤独」を語っていたのに、あれは嘘だったのか、騙された、と言う人がいることです

まず、何を「孤独」と感じるかは人によって異なります。あなたの感じる孤独が、他者の感じる孤独と同じとは限りません。

家族がいない、家で独りぼっち、が孤独というのなら、結束の固い家族に恵まれて育った羽生君が孤独だったことは今まで一度もなかったことになります。しかし、彼ほど孤高のアスリートを私は他に知りません。頂点とされている場所に到達しても尚、もっと上手く、もっと強く、と貪欲に進化し続けた羽生君は、ある時点からずっと孤独でした。誰も歩んだことのない道をひたすら突き進む孤独。彼の理想はあまりにも高く、そこを目指して進む道にはいつも彼しかいませんでした。理解されない孤独、ルールブックを読み解き、研究し、完璧に実施しても正しく評価されない孤独。本来なら競技の進化と発展を奨励すべき競技団体から疎まれる孤独。競技時代も孤独でしたが、プロアスリートとして新しい道を模索するために、前人未踏の挑戦を続ける今の彼はもっと孤独だと思います。競技時代は年間決まった試合があり、スケジュールはある程度決まっていましたが、今は違います。世界中のファンの期待を背負いながら、未知の世界の飛び込み、道のない未開の地を開拓していく怖さ。

彼の孤独を理解出来る人がいるとすれば、彼と同じ景色を見たことのある人、例えば体操の内村航平さんのような、ほんの一人握りの人間だと思います。

そして「GIFT」はノンフィクションではなく、物語であり、芸術作品だということを理解しなければなりません。「プロローグ」は彼個人の軌跡にスポットを当てた、いわばノンフィクションのドキュメンタリーのような作品でした。

一方、GIFTは、羽生結弦が主役でありながら、見る者の心にスポットを当てさせる作品になっています。言葉によって語られる彼自身の内面の葛藤は、映像によってより抽象的にデフォルメされており、見ている人は彼の孤独や苦悩に、自分の孤独や苦悩を重ね合わせることが出来ます。家族や友達がいない、会社で孤立している、自分の居場所がない、誰からも理解されない、誰にも愛されない・・・様々な次元、様々な性質の孤独や苦悩に寄り添う羽生結弦からの贈り物、「GIFT」とはそういう作品だと思います。彼は自分の内面世界を新しい形のパフォーミングアートに昇華させたのです。

偉大な芸術家達は常に己の葛藤や絶望を芸術作品に昇華させてきました。文豪でも画家でも作曲家でも・・・

文学なら真っ先に思い浮かぶのが太宰治の「人間失格」です。
「人間失格」は太宰自身がモデルですが、あくまでもフィクションです。彼は自分の私生活に基づきながら、ただの体験談にせず、1世紀近く経った今も愛読される文学作品に昇華しました。

GIFTで孤独だと言っていたのに、結婚するなんて騙された、などと言う人に関しては、どうしたらそんな発想になるのか理解に苦しみますが、言ってみれば「人間失格」の内容と、太宰の実生活との食い違いを「嘘を書いた」と非難するようなもので、全くナンセンスです。

入籍報告の仕方について批判する人もいます。報告して欲しくなかった、報告するならせめて相手の情報をもう少し教えて欲しかった、いきなり入籍ではなく付き合っている人がいるなら先に教えて欲しかった云々・・・
フェミニズムを振りかざして的外れな批判をしている人までいました。

私はファンもパートナーの女性も配慮した、実に彼らしい、スマートで賢いやり方だったと思っています。そしてどんなやり方でいつ発表しても、難癖をつける人は必ずいたでしょう。

末に彼には公表しないという選択肢もあったはずですが、敢えて公表したのはファンに対する誠意、そして自分の真価はスケートであり、これで勝負していくのだという強い決意があってのことでしょう。そしてパパラッチに追い掛け回される恐怖を味わったことのない人間が、彼の入籍報告の仕方についてとやかく言うべきではないと思います。週刊誌に何度も根も葉もないことを書かれて「何度も死のうとした」ほど苦しんだことのある彼が、考えて考えて考え抜いた末に出した結論が、今回の入籍報告であり、最善の方法だったと私は思います。

彼をアイドルのように愛し、夢中になっていたファンは、もしかしたら今回の結婚で離れていくのかもしれません。しかし一方で、潔い入籍報告で彼に興味を持ち、ファンになった人もいます。そして、新しい作品やアイスショーが公開されれば、きっと新たなファンが増えるでしょう。ファンの変動なんて普通のことです。でも、本当に彼のスケートを愛するファンは、彼が見る者の心を揺さぶる演技を続ける限り、絶対に離れませんよ。

女性人気の高い世界的アスリートというと、ロジャー・フェデラーとクリスティアーノ・ロナウドが思い浮かびます。フェデラーは随分前に結婚していますし、ロナウドは複数の女性との間に子供をもうけ、現在はパートナーがいるようです。フェデラーが結婚した時、あるいはロナウドに恋人がいると発覚した時、特定数のファンが去ったのかどうかは知りませんが、現在も彼らの人気は絶大です。人々はフィールドで発揮される彼らの驚異的な能力と華麗なプレイに魅了されて応援するのです。妻だの恋人だの子供だの、私生活をフィールドに持ち込む人はいないでしょう。ピアニスト、指揮者、オペラ歌手、バレエダンサーや役者といった舞台のアーティストについて同じことが言えます。素晴らしい演奏や踊りに感動している時、そのアーティストが既婚者かどうかなんてどうでもいいでしょう?

アイスショー「ノッテ・ステラータ」で羽生君は「これからもスケートのための選択をしていきます。信じてください」と言いました。

今後、彼が氷上で公開していく演技やアイスショーで、彼のこの言葉に偽りがなかったことが証明されていくでしょう。そして、私は決して裏切られることはないと信じています。

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☆本ページはプロモーションが含まれています

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu