EleC’s Worldより「BalleticYuzu 05:ホワイトレジェンドの4T」

イタリアのバレリーナ、アレッサンドラさんのシリーズBalleticYuzu
第5弾の今回は先月の24時間テレビで披露されたホワイトレジェンドのあのパッセージです

 

原文はエレナさんのブログに掲載されました

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アレッサンドラ・モントゥルッキオ著
(2021年8月31日)

皆さんこんにちは

私はBalleticYuzuの新しい章と共に再びここにいます。ご想像通り、ユヅの「ホワイトレジェンド」と「花になれ」を見た後、書かずにはいられなかったのです。

この2つのプログラムに関しては複数のテーマを掘り下げることが出来ます。両プログラムの腕の呼吸(プログラム?演技?何と不適切な言葉でしょう。おそらく「霊的啓示」と形容すべきでしょう)からアティテュード・デリエール、「花になれ」の静止からブレードのトゥまで考察すべきテーマは色々ありますが、マッシミリアーノ・アンべージを含め、皆の息を止めたパッセージを取り上げることにします。

どのパッセージかはもうお分かりですね?
「ホワイト・レジェンド」の4トゥループの出(間違いではないけれど、恥ずべき過小表現です)についてお話したいと思います。

バレエダンサーなら誰でもこの4Tに夢中になるでしょう。

準備:腕は均衡が取れていて柔らか、肩は力が抜けていて、真っすぐながら固さのない姿勢。前傾にならずに深いプリエで弾みを付ける。

ジャンプ自体:非常に高さがあり、身体は真っすぐで頭部は背中と首のラインの延長上にある。仕上げはバレエで「バルーン」と呼ばれる、身体がまるで宙に浮かんでいるように自然に見える能力。

バルーンとは、ジャンプをする能力でもジャンプの高さのことでもなく、見る者に身体が空中で一瞬止まっているような錯覚を起こさせる能力のことです。つまり見る者に「もう降りてこないの?」と思わず愚かな自問自答をさせてしまうような現象なのです。

フィギュアスケートでバルーンに遭遇する、または見分けるのは簡単ではありません。フィギュアスケートのジャンプの特徴はバレエのそれとは異なるからです。

まずフィギュアのジャンプの方が断然ハイスピードから実施されます。そしてバレエダンサーに比べて「空中での移動」が大きく、この水平移動によって、バルーンがあっても分かりにくいのです。例えば、宇野昌磨のようなスケーターのジャンプと、ブライアン・オーサーの現役時代のジャンプを見比べてみて下さい。前者にはバルーンがありませんが、後者にはあります。

ユヅのバルーンは特に顕著で、3アクセルが天空で捕まっているように見えるほどです。ここで取り上げる4Tでは彼のバルーンがはっきり見えました。まるでエアバルーンのように巨大でキラキラしていました。

そして、ようやく天空がユヅの身体を放し、彼が氷上に戻る時・・・まさに目と心と魂の至福です。誰にとっても、とりわけバレリーナにとって至福なのです。

ユヅは着氷した瞬間からロン・ド・ジャンブ、アラベスク、デベロッペ・アラベスク、アンベロッペ、フェッテ、デべロッペ・アラセコンドを実施します。

詳細を説明しましょう:

-ロン・ド・ジャンブ、アラベスク:

これらの動きはフィギュアスケートのジャンプ特有の、いわば「必須」の出です。着氷する方の足が氷に着くや否や、フリーレッグを少し回転させて身体の後方に真っすぐ伸ばします。この時、軸足は屈曲しています。このパッセージで重要なのは、滑走するブレードのランニングエッジ、流れ、スピード、そして着氷した足の膝の屈曲具合です(おそらく「重要であるべき」と言い直すべきでしょう。今では爪先で前のめりに着氷し、着氷後のエッジの流れもスピードもなく、膝が真っすぐになっていても銀河点のGOEをもらえる選手が何人かいます。でもここでは関係のない話題ですので、これ以上触れません)。

それにスケーターによって発せられるエレガンス、そして簡単にやっているように見えることも大切です。バレエで重要なのは(着氷後のエッジの流れやスビードではなく)別のことです。そしてこのパッセージをバレエ用語で解説出来ますが、実際は、それらの動きを自然に取り入れているユヅにしか当てはまらないのです。

その理由を説明しましょう。

バレエではロン・ド・ジャンブからアラベスクになる足は真っすぐ伸び、アン・ドゥオール(外旋-外向き)になっており、途中で上下に揺れることなく、徐々に上がっていって最終的に「アラベスク」ポジションになります。あるいはロン・ド・ジャンブ中ずっと同じ高さを維持し、アラベスクで上に上がります。要するに心電図のようなトレースを描くべきではないのです。アラベスクでは足は背中の真後ろにあり、身体に対して約90度で、真っすぐ維持されていなければなりません。

他のスケーターを例に挙げ、彼らのジャンプ特有の出を前述のバレエ用語に当てはめてみましょう。宇野昌磨はフリーレッグが低過ぎて「氷を削っています」。ネイサン・チェンはフリーレッグが低過ぎるだけでなく、上半身が前傾し過ぎています。ハビエル・フェルナンデスとパトリック・チェンはより正しい姿勢ですが、いずれにしてもフリーレッグが「開き過ぎて」います。つまり足の位置が背中の真後ろではありません(そして足の高さも低目です)。

それではユヅのアラベスクを見て下さい。

脚は身体に対してほぼ90度、背中の真後ろで、完璧に真っすぐ伸びています。それだけではありません。足の甲はふくらはぎと足首と一直線上にあり、下向きに下がっていません。脚はアン・ドゥオールです。脚をアン・ドゥオールで背中の真後ろに維持するために、ユヅは臀部を開きません(すなわち、彼の臀部はフリーレッグを支えるのではなく、背中に沿って真っすぐに保たれ、対応する腰が上がり、外向きに回転しています。これにより脚が90度、またはそれ以上に達しやすくなるのです。トゥトベリーゼ門下のロシアの少女達がよくやっていることです)。最後にロン・ドゥ・ジャンブが発展してアラベスクポジションになります。脚が下から上に突然上がる印象(これも非常にトゥトベリーゼ的な特徴です。おそらく女子の典型的な回転不足ジャンプでは必然的にロン・ド・ジャンブがより長くなり、維持するのがより困難になるからでしょう)は決して与えません。

一言でまとめると:ロン・ド・ジャンブとアラベスクを正しく実施しているのはユヅだけです。彼ただ一人なのです。

 

– デベロッペ・アラベスク:

この場合、真っすぐ伸びた足を地面から持ち上げてアラベスクポジションにするのではなく、フリーレッグが軸足の足首、ふくらはぎ、膝を順々に撫でるように上がり(つまりパッセのポジションになります。フリーレッグは曲げられ、爪先(この場合スケート靴の先)が軸足の膝の後ろにあり、ここから脚を伸ばしてアラベスクポジションになります。

多くの人がデベロップを挟んでアラベスクに到達する方が簡単だと考えています。確かにこの方法で脚を90度持ち上げる方が少し楽です。しかし、腰のポジションをより正確にコントロールし、腹直筋と臀部を更に収縮させる必要があることも事実です。そして私の印象では、スケート靴を履いて動くことにより、パッセからアラベスクポジションに至るまでに必要なコントロールの維持は、より一層難しくなるように思われます。いずれにしても、ユヅはこのコントロールを見事に維持しています。臀部は少し開いていますが、デベロップからアラベスクへの移行に何の迷いもなく、確信に満ちており、脚は90度以上に上がっています。非常に高いアラベスクで(必然的に)上半身が前傾するために、もう少しで別のポジションになるところでした。

 

– アンべロッペ、フェッテ、デべロッペ・アラセコンド:

これは大変難しいパッセージです。まず、ユヅが4Tを実施したことを忘れてはなりません(ただのジャンプではなく4回転ジャンプです)。右足で着氷し、まだ右足に乗ったままです。4回転ジャンプを着氷した後、何秒間も同じ脚で、後方に滑走し続けるために必要な力、コントロール力、均衡感覚が如何ほどなものか考えてみて下さい。

他の特定の選手達がやっているように、実質停止した状態で爪先で着氷し、大急ぎでフリーレッグを置いて逃げ去る4回転ジャンプとは大違いです。

本題に戻りましょう:まず、ユヅはデべロッペと逆の動き、つまりアンべロッペを実施し、脚をアラベスクからパッセにします。同時に止まることなく半回転のフェッテを実施して180度向きを変えます。「フェッテ」とは実際には向きが1度または何度も変化するターンを伴う動きのバリエーションのことで、ユヅは腰をバネにして後ろ向きから前向きになります。その後、アンべロッペを実施し、同時にフェッテで向きを変え、それから脚が身体の横で伸びるまで再びデべロッペを実施します(バレエでは「アラセコンド」と呼ばれるポジションです)。アラセコンドの彼の脚はただ真っすぐ伸び、アン・ドゥオールになっているだけではありません。90度以上の高さにあるのです。

脚を空中で維持するのがどれほどハードか考えたことがありますか?とりわけ90度以上で維持することが?
大腿四頭筋・ハムストリングをどれだけ消耗するか試してみて下さい。
岩を持ち上げているように感じませんか?そして何処まで脚を引き上げられますか?彼が引き上げた脚の位置までではないですよね?

そう、これを行うには大腿四頭筋・ハムストリングではなく、内転筋を使うのです。そして脚を前方または側方に引き上げるために内転筋を使うのは非常に難しいことなのです。絶対に出来ない人もいます。まるで脳内でメカニズムのスイッチを「エイ!」と突然入れなければならないように。例え動かす方法を理解していても、そのメカニズムは長年、あるいは一生スイッチが入らないかもしれません。

ユヅはこのメカニズムがどう機能するのか理解しました。そして彼がバレエダンサーではなく、スケーターであることを思うと、彼がやっていることの凄さに私は感動を覚えるのです。

膝が真っすぐ伸びた、氷に着いている方の脚で彼がやっていることについても同じです。試してみて下さい。軸足を曲げた方が、フリーレッグはずっと上がりやすくなるのです。しかし、ユヅはそうはしません。ユヅはバレエダンサーのクオリティでデべロッペ・アラセコンドを実施しているのです。

そして彼は(柔らかな腕、エレガントに真っすぐ伸びた姿勢、リラックスした肩、常に首の延長線上にある頭部が添えられた)これら全てを、(何度も繰り返すようですが、そして何度でも繰り返しましょう)4回転ジャンプ着氷後に行っているのです。しかもずっと同じ脚で、ということも思い出さなければなりません。ブレードで滑りながら・・・

もうお手上げです・・・もはや彼のスケートについて度々目にする「動く詩」という言葉さえも過小表現に思えてきました。

#balleticyuzu

 

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☆4Tの出、凄いことをやっているのはすぐに分かりましたが、こうしてパッセージごとに専門的に解説してもらうと、如何に彼が異次元のことをやっているかが分かります。
彼はこの複雑なパッセージをピボットで優雅に締めくくっています。

アレッサンドラさんは24時間テレビの演技の別のパッセージも考察してくれる予定のようです(楽しみ!)

ホワイトレジェンドは歴史の長いプログラムです。個人的に大好きなプログラムなので、彼が時を隔ててこうして何度も滑ってくれるのはありがたいことです

2010年全日本
最初のジャンプは3アクセルで、シンプルな出(でもとても美しい)、アレッサンドラさんのバレエ用語を借りるならロン・ド・ジャンブ、アラベスクです

2011年四大陸選手権

こちらは2012年ニース世界選手権のエキシ
同じく3アクセルです

2014年ソチ五輪エキシ
最初のジャンプはダブルスリーからの3Fでした。出のパッセージが更に長く優雅になっています。

Together On Ice(2014年)と2016年24時間テレビのホワイトレジェンドの動画は見つけられませんでした。

そしてこちらの動画では2011年東日本震災の後、彼が初めて人前で滑った神戸チャリティアイスショーでのホワイトレジェンドの一部が見られます。

避難所で数日過ごした後、別の場所で練習を再開したものの「スケートを続けていいのか」「自分だけ震災から逃れていていいのか」と葛藤し、思い悩んでいた彼が自分の演技に感動し、拍手喝采を送る人々を見て、スケートをやりたいという強い気持ちを取り戻すきっかけとなった演技でした。

演技終了後の弾けるような彼の笑顔からは「自分はスケートが好きなんだ」という気持ちが伝わってきて何度見ても感動させられます。

 

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu