EleC’s Worldより「BalleticYuzu 06 – 『独創的な』ツイヅルで締めくくる4S」

マッシさんのナポリ講演は、なにしろ録画時間2時間、息をつく間もなくひたすら語り倒す恐怖のスーパーマジンガントークだったものだから、編集が難航しているらしく、まだこちらに動画が回ってこないので、当分の間お待ち頂くとして(しかし、凄いこだわりを持って編集して下さっているようなので、もの凄い大作が出来上がる予感がします!)、バレリーナのアレッサンドラさんがバレリーナ視点から羽生君の動きを分析するBalleticYuzuシリーズの新作を投稿して下さいましたので、そちらを先に訳したいと思います。
いつものようにエレナさんのブログEleC’s World に掲載されました。

原文>>

アレッサンドラ・モントゥルッキオ
(2021年10月7日)

皆さん、お久しぶりです。
#balleticyuzu第5章はロステレコム杯(2018年だと思います)公式練習の短い動画からインスピレーションを得ました。

ご覧になりましたか?
ユヅは他選手の曲のテンポに完璧に合わせて見事な4サルコウを実施し、着氷でバレエ教本通りのアラベスクを披露し、フリーレッグをそのまま置こうという気は微塵も起こさず、ツイヅルを2回私達にプレゼントしてくれました。しかも、回転しながら頭も独特の方法で回しながら。今日掘り下げるテーマはまさにこれです:特に回転中の彼の頭部の使い方です。とりわけピルエット(あるいはツイヅル)を実施している時の彼の頭の動きに注目してみましょう。

簡単なテーマではありません。事実、私はスケーター達がどうしたらバランスを崩さずにこんなに多く回転出来るのか分かりません。スピンでは10周近く回っています。すなわち、頭も10回転させているのです・・・どうやったら目を回さずにいられるのでしょう?本当に驚異的です。

私が知っていることは、バレエでは頭部を特定の方法で使用せずにピルエットを30回実施出来る人は誰もいないということです。そうしなければバランスを崩し、転ぶか、少なくとをピルエットを続けられなくなります。そして視界がぼやけ、部屋が嵐の中の船のように動いている印象を受けるでしょう。バレエとスケートで何故このような違いがあるのか?何度言いますが、私には全くわかりません。

ひょっとしたら私の知らない物理の法則が関係しているのかもしれません。いずれにしても、バレエ的観点から私が強調したいのは、目が回らないように(あるいは吐き気を起こさずに)回転するには、頭部であることを行わなければなりません。

すなわち、スポット概念を身につける必要があるのです。

ピルエットの準備をする時、視線をある一点に定め、出来るだけ長く、すなわち頭部が身体の動きに従わなければならなくなる瞬間まで、その一点を見続ける必要があります。つまり、ピルエットでは頭部は一番最後に回転しますが、その後、一番早く、元の場所に戻ってこなければなりません。視線が前と同じ「スポット」に定まるよう身体が回転を終える前に、頭部を一瞬で元の位置に戻さなければならないのです。
スポットは一定のままか、変化することがあります。前者の場合、ピルエットは開始地点と同じ場所で終了します(ほとんどのピルエットがそうです)。自分の真正面に視線を固定し、ピルエットを実施して、再び自分の正面の同じ一点に視線を戻します。この場合、視線は通常、目の高さですが、観客席に向かってやや下向きに傾斜している舞台で踊る場合、バランスを保つために次のようにスポットを定めなければなりません:a)ピルエットが観客に向かって実施される場合は(つまり下り坂)自分の目の位置より少し上、b)ステージの後方に向かってピルエットを実施する場合は(つまり上り坂)自分の目の位置より少し下。

先ほど言ったように、スポットを変えることも出来ます:ピルエットの場合には、例えば前向きで開始し(劇場の場合、観客に向かって、スタジオなら鏡に向かって)、後ろ向きで終えます(観客または鏡に背を向ける)。この場合、回転を始める際、頭部は一瞬でピルエットを終える場所に新たなスポットを見つけることが重要になります。例えば、私のピルエットが観客に背を向けた位置で終わるなら、新たなスポットは舞台の奥でなければなりません。
つまり、ピルエットを終える時の「到着」のスポットが必要不可欠になるのです。今述べたことは、いわゆる「マネージュ」(バレリーナが舞台で大きな円を描きながら進むこと)では顕著です。私が説明したことをより簡単に理解して頂くために、参考映像の動画をリンクします:

頭部を使うことが如何に難しいかお分かり頂けますね?しかし、こうしなければ、回転を安定させられず、転んだり、躓いたり、あるいは気分が悪くなるリスクすらあるのです。

つまり、頭部を変則的な方法で動かしながら回転するのは更に困難で複雑になります。バレエ(そしてバレエだけでなく、アフロ、ジャズ、モダンバレエなど他のジャンルの舞踏でも)、身体を回転させながら、頭部をこれほど頻繁に振り動かすのは見たことがありません。身体がほぼ静止している時、または回転していない時に頭を回すことはよくありますが、身体を回転させながら、頭を回すのは全く別のことです。

例を挙げましょう:

ご覧になりましたか?2人組のダンサー、ケイシーとショーンは何度か頭を回しますが、身体と一緒に回しているのは1度だけ、しかもピルエットではありません。両足をしっかり地面に付き、歩きながら円を描いています。

並外れた平衡感覚と回転能力を備えたダンサーだけが、ピルエットと変則的な頭使いを組み合わせる余裕があります(いずれにしても僅かの間です)。史上最高のバレエダンサーの一人で、特にピルエットが得意なことで有名なダニール・シムキンのケースを見ましょう。「海賊」のソロを見て下さい(2.45から始まります):

ピルレット実施中、スポットを再び見出すために、頭を正確に回転させているのが分かりますか?最後のパッセージの一番最後のピルエット(パッセージは3.37に開始し、最後のピルエットは3.41です)でのみ、頭は「標準タイプ」の回転をせず、身体と一緒に動きます。

頭部で特定の動きを実施するのが何故これほど難しいのか(そして多くの場合、文字通り吐き気を催します)お分かり頂けましたか?

ここで冒頭で投げかけた疑問に戻らずにはいられません。私はユヅに訊いてみたいのです。どうやったら、ツイヅルを実施しながら、こんな風に頭を動かすことが出来るのですか?スケーターにとってはバレエダンサーより簡単なことなのかもしれません。でも、私は他のスケーターがこのように簡単に頭部を動かしているのをほとんど見たことがありません。いいえ、ほとんど、というよりも彼以外でこのような動きを行っていたスカーターは一人も思い浮かびません。

私の勘違いかもしれませんが、バレエではピルエットに該当するツイヅルを2度行いながら、音楽に合わせて、頭をこんな風にさりげなく振り動かせるのはあなただけです・・・一体どうやっているの?しかもエッジ1本だけに乗って、氷上を滑りながら、どうやってバランスを維持しているの?

私には答えが分かりません。ただ終わりのない不可思議が広がるばかりです。

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☆回転中のスポットの話はこちらの記事でも出てきます:

ロステレコム杯の公式練習は怪我があり、辛い映像なので見返すことはないのですが、これはきっと初日の練習ですね。

こんな「お遊び」をやっていたとは!
本番の振付にはない動きですから、4Sを降りて、余裕だったからついでにツイヅルも付けちゃおっかな~、とちょっとやってみた、という感じでしょうか。しかも、入りはイーグルです。

昔読んだ佐藤春夫の小説のタイトルを思い出しました・・・

神々の戯れ

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu