Figure2Uより「バブルについて~女子シングル総評」

先日、放送されたマッシミリアーノさん出演のポッドキャストから
男子シングル以外で印象に残った部分を抜粋・要約しました。

出演

マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユロスポ解説者、ジャーナリスト
フランコ・クルカージ(F)元アイスダンス選手、Sport2uディレクター

 

F: 観客のいない世界選手権は世界選手権じゃないみたいだった
バブルは機能したのか、機能しなかったんか?

M:陽性者が数人出たからこのバブルは完全に機能した訳ではなかった。
でも問題はそこじゃない。
現在のこのような状況では誰に対しても大会出場を強要すべきではない。
確かに、頭にピストルを突き付けられて出場しろと脅された選手は誰もいなかったけれど、この世界選手権で五輪出場枠が決定される以上、連盟は自国の選手達に出場するよう要請するだろう。
結果的にフランスのパパシゼ以外の全ての有力選手が出場した。
正直に言って、僕ならこの大会で五輪出場枠を決定しなかった。そうすれば選手達は出場の可否を自由に選択することが出来ただろう。
五輪出場枠を決める方法は他にも無数にあったはずだ。結果的にこのような形で開催され、選手達は出場したけれど、正直に言って、全体的に全選手をもっとリスペクトすべきだった。
これがこの大会で五輪出場枠を決めると発表された時に僕が持った正直な感想だ。

F:僕の疑問はこれほど出場選手の少ない大会でも陽性者が出るのに・・・オリンピックは可能なのか?

M:10か月後だね。
それまでに皆がワクチン接種を済ませる、というのが地球全体の政策だと僕は思う。選手達はワクチン接種が推奨される。選手と接する可能性のある関係者についても同じだ。
時間はある。
その前に7月末から8月初めにかけて夏季オリンピックが開催されるから、重要なテストになるだろう。
夏季五輪と冬季五輪の規模の差は3:1以上だから、東京五輪で何が起こるか見てみよう。
僕は数週間前まで懐疑的だったけれど、来シーズンに向けてテストイベントの予定が規則的に組まれている。
だから僕は北京五輪は開催されると思う

<女子シングル>

F:女子シングルについて話そう。
どんな印象を持った?

M:ネガティブなことが山のようにあった。
ポジティブな面とネガティブな面があった。
間違いなくシェルバコワのショートプログラムは素晴らしかった。
振付、高難度ジャンプ、トランジション、世界観が揃ったコンプリートなプログラムだった。3アクセル無しで81点以上の得点を出したのは五輪金メダリストのザギトワと銀メダリストのメドヴェデワだけだから意味のある結果だった。

ヘンドリックスのフリーもよかった。2アクセル2本、3回転ジャンプ6本のプログラムで、スケーティング、トランジション、表現力が揃ったパッケージを披露し、TESでは75点を獲得した。
だからヘンドリックスの素晴らしい演技もポジティブだったことのリストに加えよう。

僕にとっては、それ以外は全てゴミだった。
まずは採点だ。
考案当初のコンセプトからここまで逸脱したこの採点システムはもはや機能していない。
女子シングルでは完全に崩壊していた。
勿論、選手のせいではない。選手達はこの方法で勝てると思ったら、試合に向けて然るべき戦略を取るだろう。

3位に入った選手はクワドが5本入ったフリーを滑った。プログラムの中で彼女がやっていたことはリンクの端から端までの助走とジャンプだけだった。
彼女のスケーティングスキルは上達したとソーシャルに書き込む者がいるが、僕の意見では、そんなことを書くのはスケートの知識が全くない人間だけだ。
僕はここ数日間、僕と一緒に試合の実況を務めた解説者(世界選手権の表彰台に選手を送った振付師)を始め、様々なコーチやスケート関係者と話したけれど、全員がトゥルソワのスケーティングの上達はゼロという意見で一致した。

彼女のスケーティングスキルは以前と全く変わっていないし、むしろこの世界選手権では高難度ジャンプを実施するために更に乏しくなった。
僕はショートトラック出身のスケーターだけれど、クロスオーバーで左右に滑走するだけならトゥルソワより上手い自信がある。
要するに彼女にはスケートの基礎が欠けている。
だから別の方法で勝負するのはいいだろう。
フリープログラムでクワドを何本も跳ぶことはルールで許可されている。だから、5本でも7本でも好きなだけクワドを跳べばいい。
そして彼女がもし7本のクワドを降りたなら、高い得点で報われるのは当然だ。
しかし、実質、PCS6.5~7.00程度にしか値しないスケーターが全項目で8.5を獲得するのはあり得ない。
例えば振付は存在しなかった。ひたすら助走-踏切-ジャンプの繰り返しだった。
エレメントの間にトランジションはなく、確かに彼女のトランジションの得点は他の項目よりは低かったけれど4.5から5.00が妥当だった。
2回転倒した演技はPerformanceでももっと評価が下がるべきだった。
得点が出た時、僕は唖然とした。僕の意見ではこのプログラムは54-55点が妥当な評価だったと思う。しかし彼女が獲得した得点は68点だった。

僕はルールに関する問題を以前から喚起してきた。
例えば技術点で140点に達する選手がいるなら、演技構成点も140点に引き上げて、2つの得点の比重を同じにするべきだと主張してきた。
しかし、仮に演技構成点を引き上げて技術点との均衡を図っても、ジャッジ達がルールが定めた基準を無視して好きなように採点したら意味がない。演技構成点を引き上げるだけ無駄だ。

トゥルソワが3位なのは・・・分からないけれど有りなのかもしれない。
何度も言うようだが選手の責任ではない。
公式練習でのライバル達の調子を見て、リスクを下げ、4回転ジャンプを減らしてプログラムにもう少し何かを加えるという選択肢もあったと思うが、各選手にそれぞれの戦略があり、外野がとやかく言うことではない。
実際、僕は戦略に抗議する気はない。
僕が抗議しているのは、振付とトランジションの豊かな、ストーリーが語られるプログラムをノーミスで滑ったヘンドリックスのPCSがトゥルソワと同じだったことだ。
4回転ジャンプが入ったプログラムは自動的にPCSも上がったなどと主張することは出来ない。ルールブックのどこにもそのようなことは書かれていない。
ISUが一体どこに向かいたいのか理解しなければならない。

ジャッジの仕事は不可能に近い。
各エレメントをGOE要件を考慮しながら採点し、同時に演技構成点5項目も評価しなければならない。だからボタンを押しながら、同時にスケーティングや振付や実施中のエレメントも見なければならない。当然、何かを見逃し、実施されたエレメントの難度に影響される、ということが起こってしまう。
この世界選手権の女子の試合はこの採点システムが機能していないことを露呈させた。

幸い優勝したのは最もコンプリートな選手だったが、その彼女もメンタル/フィジカル面の両方においてトップの状態ではなかった。しかも最終滑走だったから、前に滑ったライバル達がミスをして得点が伸びなかったのを見て、難度を下げる戦略を取った。事実を言えば公式練習で4ルッツは1本も決まっていなかったから4フリップだけにしたのだが、あの状況なら3回転ジャンプだけのプログラムでも大差で優勝していただろう。

F:彼女はリンクに入る前から、難度を下げても勝てることが分かっていたから、何というか・・・ちょっとね。
しかし、女子に限らず、今大会多くの選手がメンタル/フィジカル面でに苦戦していたのは、今シーズンが異常なシーズンで、ほどんど試合をする機会がなかったからだろう。

M:シェルバコワはこれまでの国内大会ではシニア大会出場権のない強力なライバルに勝つために難度を上げ、演技を磨き、それが彼女のモチベーションになっていた。この大会ではこの意味においても刺激が少なく、大会には勝ったけれどベストのシェルバコワではなかった。

僕は紀平が彼女のライバルになると思っていたけれど、そうはならなかった。
ショートプログラムは素晴らしかったけれど、フリーは不調で難度を下げ、慢性的な問題(おそらく3ルッツで足が痛むこと)もあり、ミスをして順位を下げた。
ロシアのライバルになり得る唯一の選手である紀平が失速したことで、この大会シェルバコワにはライバルはいなかった。
彼女のライバルは彼女の国の彼女のリンクにいる。
彼女達は来季シニアに上がってくるから、シェルバコワはこの後輩達を迎え撃たなければならない。

F:この世界選手権の後、来季はこの「恐るべき子供達」がシニアカテゴリーに上がってくるんだよね?
この大会はプレ五輪の世界選手権になるわけだけれど、五輪に向けてこの大会の結果はどれほどの意味を持つのかな?

M:全く意味はない。意味のない世界選手権で、開催しなくても良かったと僕は思う。
まず、この大会に出場したロシア選手を五輪で見ることはないだろう。
おそらくシェルバコワは出場出来るだろうがトゥクタミシェワは無理だろう。トゥルソワの状況もトゥクタミシェワに近い。
おそらくロシアのライバル達にとっては重要な世界選手権だったかもしれない。自分達が何をすべきかが明確になっただろう。

しかし、客観的に見て「ロシアと勝負する」と言うことの出来る唯一の選手は紀平梨花だけだ。
勿論、適切な準備と然るべきプロセスを積み重ねて五輪に挑まなければならない。紀平には最強のロシア選手に対抗出来る資質が全て揃っているが、ストックホルムで見た紀平ではダメだ。
ショートプログラムにおける回転不足判定が議論を巻き起こしたが、確かの彼女のコンビネーションは客観的に見て回転不足だった。

そして(シェルバコワについて)プレロテが酷い、踏切がクリーンでないという批判があるが、この点については10時間の番組を組んで議論しなければならないところまで来てしまっている。
何故なら、これはこのようなジャンプを跳ぶ選手の責任ではなく、このようなジャンプを長年何のペナルティも与えずに放置してきたISUの責任だからだ。

僕にとってこの世界選手権の女子の試合はあまり印象に残らなかったが、多くの議論が巻き起こったことは知っている。

試合の実況を終えた時、僕は残念な気持ちになった。
アンナはここにやって来てやるべきことをやって勝ったけれど、優勝した世界選手権がパトスの欠ける盛り上がらない大会になってしまって可哀そうだった。
アンナは人間としてもアスリートとしてももっと華やかな優勝に相応しいスケーターだからだ。

問題はシェルバコワではない。もっと大きな、根深い問題がずっと蓄積されてきたのだ。
ISUが介入せず、ジャッジ達にどのように採点すべきか明確に説明せずに放置してきたために、今回のストックホルムのようなことが起こった。つまり、苦情と批判が殺到する世界選手権になってしまった。

しかし、残念なことに全ての苦情と批判には根拠がある。

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☆世界選手権を五輪出場枠を決定する大会にして、実質選手達に出場を強要した、もっと選手をリスペクトすべきだったというマッシミリアーノさんの意見には賛成です。
練習環境やシーズン中にこなした試合数と言う点において、国や選手によって天と地ほど格差があったにも拘わらず、この大会で五輪枠を決定したのはかなり不公平だと思いますし、選手達を出場せざるを得ない状況に置くのなら、せめてもっと真剣に感染対策に取り組み、バブルを徹底すべきでした。
今回の世界選手権は(前から分かっていましたが)ISUがアスリートファーストの精神から程遠い組織だということを全世界に知らしめた大会になりました。

フィギュアスケートは芸術、特に女子フィギュアはまず優雅で美しくあるべき、という考えが根強いイタリアのスケート関係者&ファンの間ではソチのリプニツカヤの頃から「ジャンプを跳びまくるだけで演技からパトスや感動を感じないジャンプマシンのベイビー達に本来、芸術であるべきフィギュアスケートを乗っ取られた」というような論調があります。

だからダイナミックで質の高いジャンプに加え、美しい滑りと抜群の表現力を兼ね備えたコストルナヤの登場をイタリアのスケートファン達は熱狂的に歓迎しました。
しかし、今シーズンはそのコストルナヤが低迷し、ワリエワはまだジュニアですので、全体的に盛り下がったワールドになりました。

最近のシェルバコワはスケーティングも表現力も以前に比べて飛躍的に上達しましたし、性格的にはコストルナヤよりずっといい子なんじゃないかと思いますが、天性の表現力と見る者を魅了する個性で光り輝いていたコストルナヤに比べると、インパクトが薄く、イタリア人が言うように「パトス」に欠けているのかもしれません。

マッシミリアーノさんはPCSの出し方に苦言しているのであって、トゥルソワ自体は並外れた身体能力とアスリート気質において高く評価しています。
しかし今回、マッシさんと実況したラファエラ・カッツァニーガさんは振付師だったこともあり、トゥルソワの演技を「助走とジャンプしかなかった。必須要素のステップのところしか振付がなかった」と酷評し、PCS68点には「こんな演技を認めるのなら、この競技はフィギュアスケートから『フィギュア』を取ってただの『スケート』と呼ぶべきだ」と激怒していました。マッシさんは彼女の抗議にあまり取り合わず、ジャンプの種類や回転など技術面について冷静に淡々と解説していたものだから、ラファエラさんは最後の方はほとんど喧嘩腰でしたw(トゥルソワのPCSが高かったのはマッシさんのせいじゃないのに😅・・・)

個人的にトゥルソワは好きですが、彼女の演技はプログラムや振付を鑑賞するというより、どちらかと言うとサーカスの曲芸を見るような感覚で楽しんでいます。
トゥルソワは清々しいほどジャンプに特化した選手ですから、技術点で可能な限り得点を積み上げる、という戦略は好き嫌いは別として有りだと思いますが、実質、助走とジャンプだけで2度転倒した演技の演技構成点が、ルッツのエラー以外ほぼノーミスで、スケーティングの滑らかさ、スピード、膝の屈曲、エッジワークの全てにおいてトゥルソワとは全く比較にならなかった坂本選手と1点しか違わなかった理由を説明出来るジャッジか専門家がいるでしょうか?

  1. 4回転ジャンプを何本も跳んだから
  2. ロシアの選手だから

以外で説得力のある理由を説明出来る人がいたら教えて欲しいです。
ちなみにトゥルソワのSSは8.64で、坂本さん(8.75)と僅か0.09点差、ブライディ・テネル(8.46)、さっとん(8.11)より高い評価でした😱・・・「スケーティングスキル」ですよ???

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu