Figure2uより「北京オリンピック展望」

1月25日に放送されたポッドキャストFigure2uより
男子シングル、女子シングル(要約)、団体戦の展望だけ抜粋して訳します。

エレナさんが男子シングルと団体戦の部分だけ切り取ってくれました
Grazie Elena!

出演者
フランチェスカ・カッツァニーガ(F)スポーツジャーナリスト、テレビ解説者
マッシミリアーノ・アンべージ(M)伊ユーロスポーツ解説者、ジャーナリスト

F:男子シングルの本命は2014年と2018年のオリンピックチャンピオン、羽生結弦でしょう。
彼にとってより大きな脅威となるのはおそらく2018年と2019年の世界チャンピンでオリンピック団体銅メダリストのアメリカ人、ネイサン・チェンですね。
注目すべきもう一人の選手は日本の鍵山ですか?

M:事実を言えば、ネイサン・チェンは2021年にも世界タイトルをもう一つ獲得している。
現在、彼はおそらく最も高い評価を貰っている選手だ。
しかし、もし内容に見合った演技構成点と、本来あるべきGOEで正しく採点される試合なら、勝負にさえならないという僕の考えは変わらない。
つまり、羽生が大差でネイサン・チェンを上回るだろう。
しかし最近5年間のフィギュアスケートではそうではないから、適応しなければならない。
オリンピックでの勝利が結弦の目標においてどれほどのウエートを占めているのかは分からない。
最初はこのオリンピックに行く気はなかったのだろうが、最終的にこのような状況になった。そして彼のようなチャンピオンは決して後戻りはしない。
今シーズンを見たところでは、勝負の行方は分からない。今この瞬間の結弦の目標が4アクセルの成功であることは明らかだ。オリンピックで勝つより、4回転アクセルを成功させる方が難しい。
試合でこのエレメントを成功させることが出来たなら、オリンピックも勝つだろう。
何故ならこの2つ(4アクセルと金メダル)は連動してるからだ。
しかし、一方にはオールラウンドのアーティストがいる。
羽生結弦だ。
あらゆるディテールにこだわり、自分の全てのニーズを完全に満たすために編曲にも介入し、物語を織り上げるために新しいパートを挿入する。
彼と共にフィギュアスケートは変わった。
10年間もトップに君臨することは並大抵のことではない。
彼は長い間、多くの選手にとってのレファレンスポイントだった。
彼のエレメントのクオリティの高さは議論の余地がない。
全日本を見た人は、年齢にも拘わらず、多くのジャンプが更に進化していることに気付いたはずだ。サルコウは驚異的な代物に昇華し、他の誰にとっても想像すら出来ない、比類のない自然さで実施されている。
つまり、一方は真のアーティストだ。

もう一方の選手は、採点システムをフル活用し、実施したジャンプによって出来るだけ高得点をかき集める。これらのジャンプは常に技術的に正しい訳ではなく、羽生や他の優れたジャンパーのジャンプとは比較にならない。
しかし、現在はこのような傾向が流行っていて、4回転ジャンプを多く決めれば、演技構成点も跳ね上がるのだ。
つまり4回転ジャンプ5本はPCS各項目平均9.0に値する。
本来、こうあるべきではないが、現実はこうなのだ。

このような理由から、オリンピックと他のあらゆる大会の正当な優勝候補である羽生は、ネイサン・チェン達ライバルと対峙しなければならない。
(ライバルの中で)ネイサン・チェンは間違いなく最も多くの武器を装備した選手だ。それからヴィンセント・ジョウ、彼も多くの4回転ジャンプを跳ぶ選手で、彼のフリープログラムは4回転ジャンプ5本と3アクセル2本、そしてその他のコンビネーションジャンプで構成されている。

F:宇野昌磨は?

M:昌磨もこの路線だ。つまり数で勝負する。
だから4回転5本、3アクセル2本を入れる考えだ。
しかし、僕の見方では昌磨はアメリカ人より優れたスケーターだ。
この点において議論の余地はない。
より優れた表現者で、スケーティングの質でも彼らより断然優れている。

F:同感だわ。

M:幾つかのケースでは昌磨は彼ら2人より順位が下だったが、母国開催のグランプリ大会、NHK杯ではヴィンセント・ジョウを破っている。

鍵山も間違いなく優れた資質を持つスケーターだ。
彼はオリンピックで4回転ジャンプをもう一種類増やす考えだ。
しかし4ループの確率はまだ低いから、どのような判断をするか見てみよう。
もし保守的な構成、つまり4回転ジャンプがサルコウとトゥループ合計3本のフリープログラムで行くなら、彼の命運は他の選手次第だ。何故なら、表彰台に上るには他の選手のミスが必要だからだ。
前述の4選手がノーミスなら大差で彼を上回るだろう。
いずれにしても優真は次のミラノ五輪までの4年間で注目すべき選手だ。勿論、北京でいい結果を出せる可能性もある。
他の選手については、欧州選手権で新たな発見があり、コンドラチュクが安定感を見せた。しかし彼についても、鍵山と同じだ。
前述の4選手達に追いつくには技術点で何かが足りない。

そして北京後の4年間でどんなフィギュアスケートを見られるのか僕には分からない。
何故なら新しいルールが導入される可能性があるからだ。
僕が尊敬する多くのコーチ達が、4回転ジャンプと繰り返しジャンプの数を制限するための戦いを推し進めている。
つまりルールはこのままでも4回転ジャンプは4本を超えたらダメとか、あるいは4回転ジャンプの繰り返しはダメとか、そんな変更もあり得るかもしれない。このようなフィギュアスケートは変えるべきだという声は多く耳にするからね。

僕は変革が必要とは思わない。ルールを読み解き、正しく適用することが重要なのだ。
そしてフリープログラムでは特定にエレメントに制約を与え、芸術的要素が三次的(二次的ではなく三次的だ)なものになってしまわないようにする。

確かなことは、30メートル助走してから4回転ジャンプを跳び、クロスオーバーを4回挟んで再び助走の後4回転ジャンプ、その後は40秒間何もせず、両足滑走(それも見苦しい)だけで休憩・・・こんなプログラムは正直誰も見たくないということだ。
そしてこのようなスケートがオリンピック金メダルをもたらすなら、何か問題があるのは明らかだ。

勿論、皆が同じ考えではない。アンバランスな動きのコレオシークエンス、非常にエネルギッシュだが足では何もしていない、上半身の動きはずっと途切れないかもしれないけれど、最終的に意味のない動作・・・こんなのは僕は好きではないが、これが好きな人も大勢いるのだ。おろらく概念の異なる2つのフィギュアスケートが存在し、僕が古いのかもしれない。
僕には新しさやモダンさは分からない。
しかし、現在多くの人がチャンピオンと見なすスケーターから僕は何も感じないし、芸術的価値は少ないと思う。
以上を述べた上で(オリンピックで)何が起こるか見てみよう。

(女子はザックリ要約)

F:女子シングルはロシアの表彰台独占だと思いますか?
それとも日本の坂本花織にもチャンスはある?

M:ロシアの選手達がコロナに感染せず、競技出来たら彼女達が表彰台を独占するだろう。
彼女達は仮にミスをしてもライバル達に比べて多くの得点を握っている。
カミラ・ワリエワは現時点で最もコンプリートな女子スケーターだ。
イタリアでもワリエワに対する批判があって、おそらく日曜日の屋外スケートさえやったことのない連中が彼女の振付やエッジやジャンプ技術を批判する。
断っておくが、僕はロシア女子のジャンプ技術を最初に糾弾した一人で、今もカミラの3フリップを見る時、トリプルかダブルか疑念を抱く。
しかしテクニカルスペシャリストはこのようなジャンプをどうコールするのか?
「3F」だ。
そしてワリエワは回転し切ってから着氷している。つまり着氷時の回転不足はない。
彼女のトゥピックについては1冊の本が書けるが、もはや皆がこの跳び方で跳んでいる。
日本でも子供達にこの跳び方を教えている。
島田麻央のジャンプを見て欲しい。
ロシアは随分前からこの跳び方を教えている。
ツイッターなどではこのジャンプについてエテリ・トゥトベリーゼを批判しているが、ワリエワに基礎を仕込んだのはトゥトベリーゼではない。他の多くの選手がそうであるように、別の場所で育ったスケーター達が彼女の元に移籍してくるのだ。
コーチは結果を出しているか否かで評価されるべきで、トゥトベリーゼに対するこのような批判は的外れだ。

競技の話に戻ると、金メダルの本命はカミラ・ワリエワだ。
ただし、もしアレクサンドラ・トゥルソワが彼女が思い描くジャンプ構成を完全にやり切ったなら、脅威になるかもしれない。
シェルバコワが彼らと勝負するには少なくとももう1本クワドが必要だ。
現在の3回転ジャンプの構成を維持するためには4フリップ以外の4回転ジャンプを入れなければならない。
しかし、現時点では1位ワリエワ、2位トゥルソワ、3位シェルバコワだと僕は思う。
もしロシアの選手達がミスを連発した場合、坂本花織がダークホースになるかもしれない。
彼女以外でロシアに割って入れそうは選手は他に誰も思い浮かばない。

(団体戦について)
F:団体戦はどの国が勝つと思いますか?
ロシア?

M:ロシアだね。何らかのアクシデントがない限り、ほぼ確実だと思う。
興味深いのは銀メダル争いだ。
僕の夢は日本がアメリカに勝つことだ。
もしそうなったら僕は24時間お祝いする。

F:(爆笑)

M:本気だよ
しかし、多くの理由により難しいだろう。
スタート時点ではアメリカはロシアに次いで2番目に強い国だ。
3位争いでは現時点では日本がカナダと中国を少しリードしていると思う。

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☆マッシさん、団体戦で日本がアメリカに勝ったら24時間お祝いするって😂

ペアの展望についてはマッシさんはジャッジの採点傾向による。
PCSとGOEを全体的に高めに出す寛大ジャッジなら、技術点で優位のアナスタシヤ・ミーシナ/アレクサンドル・ガリャモフが有利。もしPCS/GOEが全体的に厳し目なら、各エレメンツの質が高く総合力に優れたスイ/ハンが有利と。
アイスダンスは、パパジゼ51%、シニカツ49%と実力が拮抗しているので、どちらが勝つか予想するのは難しい、その時、パーフェクトな演技をした方が勝つと言っていました。

フランシェスカさんがパパシゼもシニカツも素晴らしいプログラムだけれど、どちらも永遠に語り継がれる伝説プロになりそうなプログラムではない、五輪プロに相応しいインパクトに欠けると言っていたのが印象的でした。

ロシア勢で五輪に相応しいプログラムを揃えてきたなあと思うのは、カミラ・ワリエワ。
ボレロは昨シーズンは柔軟な身体を生かした身体表現は凄いけれど、表情が乏しく機械的で彼女にはまだ早かったのではと思いましたが、今シーズンは見違えるように表情豊かに生き生きと演じているのが印象的です。シェルちゃんはショートは印象が弱く、フリーは謎編曲・謎プロなので、既にプログラムで負けている感が・・・トゥルソワのフリーはミステリアスで彼女の雰囲気に合っていると思います。清々しいほどトランジションを省いたクワド志向プロですが、5クワドが全部決まったら凄いインパクトでしょうね。

しかしこれ以上ない程の神プロを揃えてきたのが羽生君です。
ピアニストの清塚信也さんの口から語られたショートプログラム「ロンド・カプリチオーゾ」誕生に纏わる秘話には鳥肌が立ちました。
北京オリンピックは考えていなかったと言っていた羽生君
しかし「ここに来るまで支えて頂いた方々への思い、現在も支えて下さっている方々への思いを含めて」出場を決意し、4アクセルについて「もう自分だけのジャンプではない」「皆さんのために成功させたい」と言う羽生君。
彼が背負っている沢山の「思い」の中には、ショートプログラムのためにロンド・カプリチオーゾを全身全霊で編曲・演奏された清塚さんや4アクセルについて遠いロシアからアドバイスしているらしいミーシン大先生の思いも含まれているのですね。
退路を断ち、想像を絶する重圧を背負って北京に向かう覚悟を決めた羽生君。
彼が受け止めた皆の思いが、北京では彼の力になると信じています。

そしてこのような思いが詰まった2つのプログラム「ロンカプ」と「天と地と」は、北京できっと彼を守り、途方もない力を与えてくれるはずです。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu