イタリア解説EuroSport版「北京2022~羽生結弦FS」

フリーの実況解説です。

マッシミリアーノ・アンべージ(M)冬季競技アナリスト、ジャーナリスト
アンジェロ・ドルフィーニ(A)元男子シングル伊チャンピオン、コーチ、国際テクニカルスペシャリスト

M:次は2度のオリンピックチャンピン、羽生結弦の番だ
ほとんど不可能なエレメント、4アクセルを跳ぶという自分自身への挑戦を続けている
このエレメントは彼の使命になった。

全てを勝ち取った瞬間に終わらせることも出来たキャリアを彼が未だに続けている理由はおそらくこのエレメントだろう。
彼はジュニアとシニアの全ての主要大会で勝った唯一の男子スケーターだ。
史上最高の選手の一人でゲームチェンジャー、このスポーツを換えた。
まだここで挑戦を続けている。

A:本当に敬意に値する
このようなハイレベルの滑りをしながら、(4Aに)挑戦している。

M;曲は天と地と

A:4アクセル、転倒!
しかしそれほど成功から遠くない
完全に回り切ってはいなかったけれど

A:ああ4サルコウで2度目

A:3アクセル-2トゥループ
そして3フリップ

A:4トゥループ-3トゥループ
次は2本目の4トゥループ
いいね!
オイラー-3サルコウ
3アクセルもいい

M:この不可能に近いエレメントに挑戦した。
回転は今までの中で一番良かった。
しかし、何度も言うようだが、これは重力への挑戦だ。
何故ならこのエレメントを実施するには空中に長い間留まっていなければならないからだ。
他のどんなジャンプの基準よりもずっと長く

A:おそらくあまりも長い時間ね。
おそらく人類の限界の先にあるのかもしれないと僕は思う。
スローで見返そう
僕は試合は今までに見た中で最も優れた4アクセルだったと思う。
しかし転倒があったし、まだ完成にそれほど近い訳ではない。
そして回転も少し足りなかった。
4サルコウの転倒もあったから、TESはおそらく少し下がって100点とちょっとだろう。

M:しかし4アクセルの回転が足りなかったとしても(既に-5だから)それほど下がることはないだろう。4サルコウも転倒したが基礎点はそのままだ。
たからTESはステップとスピンのレベルを維持して100点のままだろう。
スピンの1つにレビューがかかっていた。足換えコンビネーションスピンだ。
しかし全てのレベルがそのままならTESは100点だ。
ただシリアスエラーが2つ(4アクセルと4サルコウ)あった場合、演技構成点には上限があるから、95~96点といった高得点は期待出来ない。
しかし、ここまでで最高のフリープログラムだろう。

A:そうだね。転倒が2回あったけれど
グラッスルの187点とそれほど変わらない得点が出るだろう。

M:僕は最後のスピンに疑念を抱いた。
リプレイで見せてもらえれば、実施したエレメントの得点を全て持ち帰れるかどうか分かる。TES100点かどうかの鍵になるのは最後のスピンだ。
これが羽生の最後の試合になるのか僕には分からないが、いずれ明らかになるだろう
間違いなく、万全なコンディションではない
練習中に怪我をした。
ここまで、彼は4サルコウは驚異的なナチュラルさで実施していたが、今日は上手く行かなかったことが、そのことを物語っている。
12月末の全日本の時の彼を見れば、違いに気付くはずだ。
いずれにしても首位に立つだろう。
ここまでで最高得点のフリーのはずだ。

188.06
Tesは100点に届かなかったが、咲くほど言ったように最後のスピンが原因だと思う。

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☆昨日のフリーの後、胸がいっぱいになってしまって、未だに何も翻訳・発信出来ずにいますが、最後まで戦い抜いた彼に、例え拙い言葉であってもせめて精一杯の感謝の気持ちを書きたいと、短いユロスポの解説だけでも何とか訳しました。

昨日のフリー、転倒した2本のジャンプを含め、最初から最後まで美しく、羽生結弦という人間の生き様と美学を見せつけられ、身体が震え、最後は涙を流していました。

そして彼の演技が終わった後、それ以上試合を見続けることは出来ませんでした。
ネイサン・チェンが優勝し、鍵山君が銀メダル、宇野君が銅メダルと言うニュースはネットで見ましたし、きっと素晴らしい演技だったのだと思いますが、未だに見る気にはなれません。
「全員応援」というのは私には無理だと気付きました。
心が狭いなあと思いますが、「他の選手達も応援しています」と言ったら偽善になります。
私は自分の心に正直でいたい。

今この瞬間、心が締め付けられるように痛いのは、羽生君が金メダルでなかったからでも、4回転アクセルで転倒したからでもありません。
彼が自分の人生計画に入っていなかったこのオリンピックに出る決意をした一番の理由は、ファンや周りの人達の期待に応えるためだったと知っているから。そして自分のためではなく、私達の幸せのために、満身創痍の身体を奮い立たせてここにやってきた彼が、今、誰よりも一番辛い思いをしているに違いない思うからです。

三連覇を狙うなら、トリノGPFの5クワドの構成を鉄板にした方が効率的でした。そして彼にとっては4アクセルを降りるより遥かに楽だったはずです。
でも彼はそうはしなかった。最も過酷な道を自らに課したのです。
そんな刹那的な彼の演技と生き方は結果や得点を超えて、人々の心を捉え、感動させ、涙を流させます。
昨日の「天と地と」はメダルとか得点とそんなものを超越していました、貴重で唯一の宝物のような時間でした。

昨日、#YuzuruHanyuはイタリアでも、もの凄い勢いでトレンド入りしました。

3時間後、他のトレンドは変化していますが、#YuzuruHanyuだけは依然そのままです。


羽生結弦は間違いなく世界で最も愛されているスケーターです。
そして彼が愛される理由はメダルの色や結果ではないのです。

4アクセルは惜しくもURで転倒でしたが、ISU公式大会で初めて4Aとして認定されました(今大会のテクニカルの基準ならURではなくqが妥当だったと私は思います)。
今大会、ベストなコンディションで現地入りしたはずが、ショートでは穴にエッジを捉えられ、フリー前日に右足を負傷するとする不運に襲われました。
そんな中で彼が昨日、成し遂げたこと、あの4アクセルを跳び、右足で着氷しかけたことは人類の遺産です。

胸を張って日本に帰ってきて欲しい。
どうか謝らないで!
スケートを続けてくれてありがとう。
素晴らしい演技、劇場、感動をありがとう。
存在してくれてありがとう。
そしてゆっくりと休息し、もう誰かのためではなく自分の心と身体の声に従って進むべき道を決めて欲しいです。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu