Corriere della Seraより「クリック稼ぎのための中傷記事はたくさんだ」

 

全国新聞「コリエーレ・デッラ・セーラ」に毎週水曜日付いてくる女性ファッション誌「F」に連載されている作家でジャーナリストのコスタンツァ・リッツァカーザ・ドルソーニャさんの人気コラム「Anti.Corpi」(抗体)より

読者の相談に答える形で美容、スポーツ、ダンス、差別や偏見との闘いなどのテーマを掘り下げるコラムです。今回はメディアと大衆による犯罪被害者の二次被害がテーマです。今月、イタリア北部で22歳の女性が殺害された事件で、被害者側に非があったかのような印象操作をするマスコミの報道を糾弾しています。羽生君の一件も悪質なメディアハラスメントの例として挙げられています。

ソニアが「大衆の病的好奇心を満たすため」にジュリア殺しの犯人をビスケットを作る善良な青年として描いたマスコミを糾弾

筆者コスタンツァ・リッツァカーザ・ドルソーニャ

親愛なるコスタンツァ

ジュリア・チェケッティンはビスケットを作っている内気な青年に殺されました。もう何人目か分からない『苦境に立たされ、自分を見失った善良な青年』です。このような文章を私達は何度読んだでしょうか?殺人者の親族だけでなく、お隣りの青年、物静かな男性として彼を描くマスコミによってうんざりするほど繰り返される弁護。このような論調によって、イタリアでは今年に入ってから100人以上の被害者女性が挑発者にされました。自ら招いた、こうなることを予見すべきだった、と責任転嫁され、一方で、大衆の病的な好奇心を満たすために、モンスターの人間性が高められ、良識が失われます。一方、あなたにとって身近な国である日本では、ジャニーズ事務所社長であったジャニー喜多川による性的虐待の数百人の被害者の一人が、彼と他の被害者達が告発したのは売名のためだと非難され、自らの命を絶ちました。同じ悪意と病的状態がフィギュアスケートのレジェンドである羽生結弦の人生を破壊しようとしています。国民的英雄であり、清廉潔白の模範である彼は、パートナー(一般人)が普通の生活を送れるように離婚を決断しなければならなくなるまで、メディアから執拗に追い回され、想像を絶する病的なタブロイド紙の迫害によって精神的健康と安全のリスクがあったと公表しました。ダイアナ妃に起こったことと比較しても大げさではありません。いつになったら、マスコミは人間の尊重を第一に考えられるようになるのでしょうか?何時になったら、被害者に同情し、犯罪者を犯罪者と呼べるようになるのでしょうか?いつになったら、販売部数やクリック数を稼ぐために中傷記事を公開するのをやめるのでしょうか?

ソニア

親愛なるソニア
今はメディアの暗黒期と言うことができます。ジュリアの姉のエレナは、物事の本質を伝えるのがあまりにも上手く、勇敢だったために、幾つかの「分析番組」に抹殺されました。毎日、罪のない人達が報道の肉挽き機にかけられます。このような人々は、大抵、自衛手段を持たない普通の人間なのです。日本国憲法は、「自由及び幸福追求の権利」を定めています。マタレッラ大統領も幸福追求の権利について話しています。ジュリアにも、喜多川の犠牲者にも、羽生とその配偶者にも否定された権利です。有名人か否かに拘わらず、誰もそんな目に遭うべきではありません。

****************

この事件は今月、イタリア北部で発生した殺人事件です。ジュリアは元フィアンセとドライブに出たまま行方不明になり、数日後に運河で遺体となって発見されました。事件後、海外に逃亡した犯人の元フィアンセは数日後にドイツ警察に逮捕されました。私はこの事件の報道をあまり見ていませんので、詳しくは知りませんが、少なくとも国外(オーストリアやドイツ)に逃亡した元フィアンセを隣国の警察に協力要請して指名手配した頃は、22歳の若さで惨殺された被害者に同情が集中し、憎むべき残忍な犯人を一刻も早く見つけて逮捕して欲しいという論調だったと思います。2人の間に何があったとしても、20カ所も刺した後、死体をビニール袋に入れて遺棄し、国外に逃亡した犯人に同情の余地はないと私は思いますが、どういう経緯からか、内気で善良な青年がむしろ被害者だったような印象操作をする報道(タブロイド紙やいわゆる日本のワイドショーに相当する『分析番組』)があるようです。痴情の縺れによる殺人で、特に被害者が若くて美しい女性の場合、メディアは大衆の関心を引くために刺激的でドラマチックなストーリーを仕立て上げようとします。惨殺された被害者女性がファム・ファタール(男を破滅させる女)だったような印象操作をする報道は以前にも何度か見たことがあります。SNSで自分の写真や映像を気軽に投稿出来る時代、容姿に自信のある女性は、セクシーなドレスで着飾ったパーティーの写真やバカンス中の水着姿の写真をインスタやフェイスブックで公開します。若くてきれいな女の子が「どう?可愛いでしょう?」と自分の写真を投稿するのは普通のことですし、SNSで繋がっている自分の友人やフォロワーに向けて発信されたものです。しかし、犯罪被害者になった途端にSNSに投稿された個人的な写真や動画が新聞やテレビで公開され、男性と親しげに写っている写真が一枚あっただけで、まるで彼女が男好きのアバズレだったような印象操作をする下衆メディアがいるのです。

犯罪被害者に対する誹謗中傷などの二次被害は日本でもよく起こります。
有名なのは、1999年に埼玉県で起こった桶川ストーカー殺人事件でしょう。まだストーカー規制法が存在しなかった時代です。警察の怠慢と責任が厳しく追及されるべき事件でした。しかも警察は事件の第一報を発表する際に、被害者の所持品に「グッチの腕時計」「プラダのリュックサック」があると発表しました。警察発表で被害者の所持品についてブランド名まで伝えるということは普通ではありえず、これは警察が自らの怠慢捜査に注目が向かないよう「放蕩した女性が事件に巻き込まれた」という印象を与えようと、意図的にそうした情報を公開したという見方もあります。そしてこれを面白おかしく脚色した週刊誌やワイドショーによって作り上げられた「ブランド好きで遊び好きな女の子」というイメージが一人歩きし、報道も世論もまるで被害者側に非があったような論調になっていきました。犯人の男性からの執拗なストーカー行為に長い間苦しめられた末に惨殺された女性が、今度はメディアと世論によって二度殺されたのです。最終的に被害者の訴えを無視した県警は責任を認めて謝罪し、幹部及び責任者は懲戒処分を受けますが、1~4月間の10%減給という、被害者とその遺族が味わった苦しみに対して、あまりにも軽い罰でした。

同じように性犯罪被害者がメディアと世論による二次被害を受けたケースとして有名なのが伊藤詩織さんの事件です。性犯罪に対する法と捜査、社会の現状に鋭く切り込んだ著書「Black Box」は世界中で出版され、イタリアでも性犯罪と被害者女性に対して理不尽な社会に立ち向かう勇敢な女性として支持されており、#MeTo運動のシンボルとして女性の権利がテーマのレクチャーでよく取り上げられます。

最近ではジャニー喜多川の性犯罪被害者の一人が、誹謗中傷が原因で自殺するという悲劇が起きました。

詳細はポプラさんのブログで紹介されています。
責任を取らせるべき (ロンドンつれづれ)

いずれも被害者が下衆メディアの報道と愚かな大衆の誹謗中傷という二次被害に遭ったケースです。そして現在、メディアハラスメントの被害者である羽生君に対してセカンドハラスメントが行われています。しかもお相手の女性の素性をすっぱ抜き、元凶を生み出した地方週刊誌は、謝罪するどころか先頭を切って彼を叩く酷い記事を書いているとか。倫理やモラルの欠片もないこのような卑劣な記者が何故野放しになっているのか?

何故一番辛い思いをした被害者が誹謗中傷されなければならないのか?
メディアや世論が加害者より被害者を叩くような理不尽な社会の現状を変えるために私達に出来ることは何か?
残念ながら、私にはまだその答えが分かりません・・・

Disney+dアカウント以外の申込<年間プラン>
☆本ページにはプロモーションが含まれています

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu