EleC’s Worldより「BalleticYuzu 03 – 4回転サルコウ」

バレリーナのアレッサンドラ・モントゥルッキオのシリーズ、第3弾の今回はジャンプです。4サルコウをバレエ的観点から分析して下さっています。

原文>>

写真掲載元:東京新聞←2㍍→写真部

アレッサンドラ・モントゥルッキオ
(2021年5月13日)

こんにちは皆さん!

世界選手権と世界国別対抗戦が終わり、スターズオンアイスも終わり、これから長期に渡るユヅ欠砂漠に突入しますので、#balleticyuzuの執筆を再開しようと思いました。結弦の動き、ステップ、ポジションをバレエを生業とする者の視点から分析するために私が始めたシリーズです。
これまで特定のプログラムの特定の瞬間(天と地と」のステップシークエンス前半と3A2T+3Loのシークエンス)を掘り下げてきましたが、今日はユヅがいつも跳んでいる、もはや何シーズンも前から彼のショートとフリーのどちらにも入っているエレメントを取り上げましょう。
彼のサルコウ、正確には4回転サルコウです。

何故サルコウなのでしょうか?
何故ならバレエ的観点から見ると、サルコウは本当に、本当に醜いジャンプだからです(ユヅのサルコウではなく、サルコウジャンプ全般のことです)。

これは私だけの見解なのか?
私の個人的な趣向が客観性を上回っているのか?
私は長い間、ずっと自問自答してきました。そして最終的な明確な答えを見つけられずにいました。
しかし、私は自分がサルコウを「バレエ的観点から見ると醜い」と考える理由を分析しようと試みました。

第一にサルコウはバレエ的にはアン・ドゥダン・ジャンプです。バレエでは、「アン・ドゥオール」(外旋)とは、脚(腰から足まで)が外側に向いていることを意味しています。 一方「アン・ドゥダン」(内旋)では、脚が平行になっているか、場合によっては内側に向いていることさえあります。クラシックバレエの脚は基本的にアン・ドゥオールがベースになっています。また、ピルエットについて話すなら、「アン・ドゥオール」と「アン・ドゥダン」の両方のタイプが可能です。前者はフリーレッグ(通常、膝を曲げて足先を軸足の膝に向けるパッセ、または膝を曲げ、足先を軸足の足首に向けるクーペのポジション)の方に回転、後者は軸足の方に回転します。ただし、ピルエットがアン・ドゥダンでも脚はアン・ドゥオール(外向き)です。パッセでもクーペでも膝は外向きです。もし膝が内向きなら、例えばジャズダンスのような別のジャンルのダンスになってしまいます。

どうやら私は説明を簡略化し過ぎて、あらゆるバレエファンを震え上がらせるような書き方をしているようですね。クラシックバレエを発明したら人は何もバレリーナ達にオン・ドゥオールのポジションを強制し(このポジションは腰の関節と骨の永続的な外転を意味しており、しばしば関節炎を引き起こします)、彼らを苦しめて喜ぶサディストだった訳ではありません(いや、ひょっとしたら少しサディストだったのかもしれませんw)。基本姿勢をこのようにした理由は、クラシックバレエの究極の目標が絶対的な美しさの追求だからです。クラシックバレエでは勿論、あらゆるパッセージ、ポジション、ステップ、動きによって物語を伝え、感情や観念を表現することが出来ますが、何よりもまず究極の美に到達しなければなりません。コンテンポラリーダンス、そしてネオクラシックバレエ(バランシンのことです)でさえも、舞踏自体を革新するために、この「美」の概念を覆すところから始めなければならなかったのは偶然ではありません。すなわち人工性(バランシンの中断されたライン、左右非対称のポジション、軸から外れた動きを見て下さい)を強調したり、あるいは意図的に「汚い」、(クラシックバレエの観点からは)「醜い」ポジションや動きを作り出すことによって(例:ピナ・バウシュ)。

サルコウに話を戻しましょう。このジャンプがアン・ドゥダンなのはスケーターが軸足方向に回転するからです。そして脚のポジション自体も非常にアン・ドゥダンで、実質、内旋した状態になります(スキーのプルークボーゲンのような脚の形です)。ですからサルコウはいわゆる古典的な美しさに欠けた、コンテンポラリースタイルに近いジャンプなのです。

これから3つの例をご紹介します。ネイサン・チェンのサルコウを選ばなかったのは、あまりにも多くの解説者が行っていること(すなわち私の意見では比較出来るところがほどんどない2人のスケーターを比較すること)をやりたくなかったから、そしてあまりフェアではないと思ったからです(チェンにとってサルコウはあまり得意なジャンプではない)。

それでは私の作成したGIF画像を見て下さい。良い出来だったプログラムの高いGOEを獲得したジャンプを選びました。

1)ナム・ニューエン(2019年スケートカナダFSの4S)

 

2)ミハル・ブレジナ(2020年欧州選手権SPの4S)

 

3)キム・ヨナ(2014年オリンピックFSの3S)

 

ナムとミハルのサルコウはよく似ています。ジャンプに入る前に数回向きを変えます。まず後方に滑走しながら左足を屈曲し、向きを変えて前向きになります(結果、お尻を少し突き出します)。この時、彼らの胴体は前傾しています。離氷の数秒前には既に両脚が広く開かれており、この準備の間、両腕は身体のバランスを取るためにずっと固まったままになります。ミハルは両腕を大きく開いており、ナムは腕を開いてから閉じますが、いずれにしても振付の動作ではありません。踏切る直前に右足を少し持ち上げ、後方からジャンプの位置で左足を包み込むように前方に持っていきます。この動作(バレエではロン・ド・ジャンブと呼ばれます)の間、両脚は完全にアン・ドゥダンになっており、膝は少し曲がっています(私のバレエの師匠なら「締まりがない」と言ったでしょう)。
どちらも出来の良い4Sで、当然高いGOEを獲得しました。

でも・・・美しいジャンプでしょうか?
残念ながら私はそうは思いません。審美的、バレエ的観点からは醜いジャンプです。

そこで、私の意見では(ロシアの4回転女子には申し訳ないけれど)現在も史上最高の女子スケーターに留まっているキム・ヨナの3Sを研究することにしました。

彼女は間違いなくより優美です。ジャンプ前の一連のターンを左脚を曲げずに実施し、胴体はそれほど前傾していませんし、両腕もそれほど固まっていません。男子2人よりも右足を持ち上げるが早く、脚はほぼ真っすぐに伸びており、あまり酷いアン・ドゥダン(内旋)ではありません。とは言うものの、ヨナでさえもサルコウの伝統的な方法で伝統的に実施しています。それほど醜いジャンプではないですが、彼女のレパートリーの中では間違いなく最も醜いジャンプです。

さあ、ユヅのサルコウの番がやってきました。
世界国別対抗戦のショートプログラムに文字通り「彫刻された」4SのGifを作成しました。
まずはその美しさに陶酔しながら数十回眺めて下さい。それから理性を取り戻し、少し距離を置いて幾つかの瞬間を注意深く観察して下さい。

羽生結弦(2021年世界国別対抗戦SPの4S)

 

他の3人のスケーター同様、ユヅもジャンプ前に数回向きを変えます。しかし彼のターンはよりタイトで両脚を大きく開いていません。彼も最初少し左足を曲げますが、本当にごく僅かです。そして次のターンでは右足も少し曲げますので、2つの連続した小さなステップを踏んでいるように見えます。まるでバレリーナがポアント(爪先立ち)でブレ(バレリーナが舞台を動き回る時に使う歩幅の狭い速足)を行っているようで、ナムや、特にミハルのような「断続的な一時停止」がなく、ずっと優美で流れるような印象を与えます。そして彼の胴体は完全に真っすぐです。

もう一度言います:

ユヅの胴体は完全に真っすぐです。

このことは離氷直前に踏切るための正しい体勢を見つけなければならないことを意味しており、彼が自分の技術に対する絶対的自信と勇気だけでなく、バレエの素養も持ち合わせていることを示しています。クラシックバレエでは、ジャンプをより効率的に安全に実施するため「だけ」に醜い体勢になることは絶対に許されないのです。
従って、ユヅは背筋を真っすぐ伸ばし、離氷の0.0001秒前にほんの少し前傾するだけなのです。
腕に注目すると、ユヅの両腕はしなやかで優美ですが、バレリーナがピルエットを開始する前の標準ポジション、すなわち片腕がポジション2番(横に開いている)、別の腕がポジション1番(身体の前、おへその高さ)でしっかり安定しています。
肘を見て下さい。右腕は柔らかく、左腕はバレエダンサーがそうするように優雅に曲げられています。腕をこの位置に置くことにより、回転に弾みをつけることが出来るだけでなく、同時に見た目にも美しいのです。
手首を見て下さい。前腕のラインを中断することなく、自然に優美に腕に従っています。
そして肩です。背筋と肩甲骨によって背中から支えられている腕の位置と、前傾していない真っすぐな胴体のおかげで、肩は下がり、リラックスした状態で維持されており、他のスケーター達がサルコウに入る時の固まった肩とは全く異なります。
最後に右足、フリーレッグを見て下さい。他のスケーター達はジャンプの踏切で弾みを付けるために右足を持ち上げ、膝を少し曲げてアン・ドゥダン(内旋)状態を維持します。見て下さい。ユヅは氷面から右足を持ち上げません。そうです。

彼は足を持ち上げないのです。

彼は助けを借りることも審美面を損なわせることもしません。右足は左足と平行に、氷上に残っていますが、アン・ドゥダンではありません。その代わり氷上に置いた脚を少し後方に押し、他のスケーター達とは逆の、そしてずっと優雅な動作によって弾みを付けているように見えます。彼は右足を身体の横から前方へ持っていくロン・ド・ジャンブではなく、左足を身体の横から後方へ持っていくロン・ド・ジャンブを実施しています。
そうです。彼は汚く、やむを得ず不格好になってしまうアン・ドゥダンではなく、無駄な動きのない、クリーンでエアリーでエレガントなアン・ドゥオールを実施しているのです。

実施の質やジャンプの入りと出だけでなく、ジャンプの美しさにこれほどこだわることは、失敗のリスクがずっと高くなることを意味していると私は思います。だからユヅはサルコウでも時々ミスをすることがあるのでしょう。

しかし、美しく決まった時、サルコウはもはや「ドン・キホーテ」や「白鳥の湖」では決して見られない、不格好なジャンプではなく、ほとんど太陽系外の絶対的な「美」に変わるのです。まるで人類を超越した霊的啓示のような・・・

**********************
羽生君のサルコウは(サルコウだけでなくアクセルもルッツもループも全てのジャンプがそうですが)、あまりにも美しく、もはや別のジャンプのように見えますが、その秘密が分かりました。
前後に散りばめられたイーグルがジャンプを更に美しくしていますが、踏切前の動作にも秘密が隠されていたのですね。
それにしても凄い分析ですね。

次回はマスカレイドです(私もまだ読んでないので、読むのが楽しみ!😊)

お楽しみに!

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu