OA Sportより「北京2022:羽生結弦、不朽のスケーターは不滅である」

お馴染みOA Sportのファブリツィオ・テスタさんが平昌男子フリーの日に感動的な記事を書いて下さっていました。

原文>>

ファブリツィオ・テスタ
(2022年2月10日)

2022年北京オリンピックのフィギュアスケート男子フリーの後、4位になった羽生結弦はもっと簡単な道を選ぶことも出来た。4サルコウの致命的なミスによる問題があったショートの後、クオリティとクリーンな演技を優先し、2014年ソチと2018年平昌の2つのメダルのような金でなくても、別の金属の威厳あるメダルを獲得することが出来たはずだ。

しかし、3度目の五輪における羽生の目標は表彰台ではなかった。別の、むしろ表彰台よりずっと野心的な大望、物理の法則に挑み、4回転アクセルを回って、歴史を塗り替えることだった。2月10日のイタリア時間の早朝、正確には5時16分、仙台のスケーターはこれに挑戦し、転倒したものの、おそらく史上最も成功に近い4アクセルを実現した。

これが自分のスポーツを心から愛し、ある意味で自分自身を脇に置いてもこのスポーツの発展を優先する程、自分のスポーツを心から愛するアスリート、羽生結弦なのだ。これまでも常にそうだったように。技術主義やおそらく万全でなかったコンディションの兆候である4サルコウでの2度目の転倒に関係なく、今日起こったことは感動的だった。2022年の北京にいる日本人は、その大望と常に人々の期待の先に行きたいという強い意志によって、競技やその他の全てを超え、ただの4位には終わらなかった。

羽生はリスクを冒すスリルを味わった。例え、表彰台を逃しても彼にはそれが許されるのだ。しかし、これまでも、これからも彼は皆を超越し、天上界に留まり、エイリアンである彼に比べて普通の人間である地球の他の選手達を見下ろす存在であり続ける。

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☆北京の4アクセル、羽生君は怪我をして失うものがなくなり、痛み止めを打ち足首の感覚がなかったからこそ、あそこまでのアクセルが出来たと言っていました。
おそらく、脚の感覚が無かったことで、普通なら無意識に働いてしまうリミッターが外れ、あそこまで回転出来たのではないかと思います。
彼自身、初めて味わった4回転アクセルの回転の感覚だったと言ってました。その上で、これだけ回転を締め切った後で片足でランディングするのは人間には危険過ぎると身を持って感じたのではないでしょうか。
これまで訳していませんでしたが、マッシさんとアンジェロさんは4アクセルについては懐疑的で、マッシさんは解説中やFBのスケートファンのグループチャットでも、4アクセルについて「物理学上、人間に可能な滞空時間内に4回転半回るのは現実的に無理だと思う。成功させる唯一の方法は、離氷前に回転を稼ぐことだろう」と言っていました。
つまりスキッドの跳び方ですね。ISUの現行ルールではスキッドのアクセルは認められています。ただし、ガイドラインにはクリーンなアクセルとGOEで差を付ける、そして踏切りが後ろ向きになるほど過度な、180度以上のスキッドアクセル(いわゆるバクセル)はダウングレード扱いになると書かれています(このルールが守られているかどうかは別として)。

つまり180度以内であれば、氷上で回転を稼いで跳び上がるという選択肢もありましたが、羽生君はプライドにかけてスキッドは使いたくなかった。それは羽生結弦のアクセルではなく、別のジャンプだから

馬鹿正直というか何というか・・・でもこんな風に愚直なまでに自分の信念を貫く羽生結弦だからこそ、私は彼がこれほど大好きで、心から応援したいと思うのです。
今後、彼はどのような選択をするのか分かりませんが、彼が北京で残したことは、ソチと平昌での2個の金メダルと同じぐらい価値のあることだったと私は思います。
まずは足を完全に治し、どんな形でも氷上に戻ってきてくれることを願うばかりです。


前回の更新からいつの間にか一週間が経過していました・・・
仕事が忙しいというのもありますが、ブログを更新する気持ちになれなかった一番の理由はウクライナ危機です。
イタリアのニュースではもう随分前からロシアがウクライナに侵攻するのは時間の問題だと言われていました。
イラク戦争、パレスチナとイスラエル問題、アフガニスタン・・・これまでも戦争や内乱の映像は嫌という程ニュースで見てきましたが、戦争をこれほど身近に感じたことはありません。
ついにロシアがウクライナへの侵攻を開始したというニューズが飛び込んできた後、もしNATOが参戦すれば、ヨーロッパ全土が戦火に巻き込まれるかもしれないという緊張がヨーロッパ中を駆け巡りました。
ヨーロッパのNATO加盟国に住む者にとってウクライナ危機は対岸の火事ではありません。ガス代や物価の高騰といった経済的影響だけではないのです。
現実的に考えたら第三次世界大戦や核兵器の使用はロシアにとって自殺行為以外の何ものでもありませんが、プーチンの正気とは思えない言動を聞いていると、ロシアがそのような暴挙に出る可能性が絶対にないとは言い切れません。
イタリアはウクライナ移民が多く、近所の行きつけのカフェで働く女の子はウクライナ人でキエフに残る親戚の安否を案じています。スポーツジムでよく顔を合わせるウクライナ人の学生は、トレーニングをしながらラジオで現地の状況を聞いています。
夫がよくシャツを仕立ててもらう仕立屋の主人はポーランド人で、ウクライナに隣接する母国が巻き込まれることを恐れています。
キエフの人達、軍事訓練を受けたことのない一般市民が火炎瓶を作る映像を見ると胸が締め付けられます。普通に生活していた人々が何故こんな目に遭わなければならないのか。

私はどんな理由であれ戦争には反対です。破壊しか生まず、いつも犠牲になるのは最も弱い立場の人々だからです。
一刻も早く事態が収束し、これ以上無駄な命が奪われないことをただ祈ることしか出来ません。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu