Sportlandiaより「五輪におけるアメリカのスケーター達」

マルティーナさんの分析記事
今回は五輪におけるアメリカの歴代スケーター達の足跡を辿りながら、ISUとアメリカスケート界の思惑を考察しています。

原文:The American skaters at the Olympic Winter Games | sportlandia (wordpress.com)

 

マルティーナ・フランマルティーノ著 (2021年5月11日)

まず幾つかの歴史的データを見ていきましょう。全ては周知の情報か、または知らない人でも簡単に入手出来る情報です。 各大会で授与されたメダルの数は常に同じだった訳ではなく、このことはこの競技で幾つかの重要な変更があったことを物語っています。

現代のオリンピックは1896年に始まりました。フィギュアスケートがオリンピック競技になったのは1908年の夏季五輪からでした。当時は、男子、女子、ペア、ソーシャルフィギュアの4種目でした。後者は1908年に五輪でのみ実施された男子の競技でした。1912年のオリンピックではアイススケート競技は実施されませんでした。1920年の次の大会では男子、女子、そしてペアの試合が行われました。1924年にオリンピックは夏季大会と冬季大会に分けられ、冬季五輪が誕生しました。第二次世界大戦前の最後の五輪は1936年、戦後最初の五輪は1948年に開催されました。1976年にアイスダンスが五輪競技になりました。

1992年までの数十年間、夏季と冬季の五輪は同年に開催されていましたが、オリンピック員会は以降、2つの大会を分けることを決め、次の冬季五輪は2年後の1994年に開催されました。2014年には初めて団体戦が行われました。国家に関しては、合併または分離した国家から国旗を使用せずに参加した大会まで奇妙な状況が幾つか存在します。メダルの集計を少し歪めている状況も幾つかありますが、こうした状況を一つずつ確認していたら膨大な時間がかかります。

最も多くのメダルを獲得したのはどの国でしょうか?

ロシア、ソ連、オリンピックのEUN選手団(しかし前大会でソ連の選手として銅メダルを獲得したヴィクトール・ペトレンコはウクライナ代表でした)、そしてロシアからのオリンピック選手団のメダル数を合計すると、ロシアが最も多くの五輪メダルを獲得しています。公称で最も多くメダルを獲得しているのはアメリカ合衆国です。

オリンピックの歴史は長く、これまでに25大会開催されましたが、過去にどの国が強かったのか、今はどこが強いのか、時間を遡り、時代ごとに何が起こったのかを見ていくのは興味深いことだと思います。最初の画像はWikipediaからスクリーンショットを撮ったものです。更に私は各国が獲得したメダルの内訳を表にまとめました(下)。1つの大会で同国の複数選手がメダルを獲得した場合、セルを複数色で塗りつぶすことは出来ませんので、最も重要なメダルの色にしました(例:2018年の日本は金1個、銀1個なのでセルの色は黄色でメダル数は2)

戦後、少なくとも1個以上の金メダルを常に獲得していたのが、アメリカとロシアだけというのは興味深い事実です。しかし、最後の大会はアメリカにとって期待外れな結果に終わり、銅メダル2個だけでした。前大会(2018年)に起こったように、アメリカが銀メダル以上のメダルが取れなかったオリンピックは戦後の19大会中3度だけでした。アメリカにとっては嬉しくない結果だったと私は思います。それでは大会をもう少し詳しく見てみましょう。下の表はアメリカ選手の成績です。

まずペア競技と団体戦を見ていきましょう。

私は全ての順位をチェックし、メダルを獲得した場合にはセルをメダルの色で強調しました。このような結果は(イタリアを含む)他のどの国にとっても、素晴らしいと言える成績です。アメリカにとってはどうでしょうか?アメリカはある期間はペアで競争力があり、ある期間はそうではありませんでした。そして金メダルを取ったことは1度もありません。アイスダンスでは、過去2大会において強く、2014年のソチでは金メダルも獲得しましたが、この大会の結果は曰く付きでした。M.G.パイエティがこの大会について2本の記事を書いています:この記事この記事です。来年、アメリカは全力でメダルを狙っていきますが、主要な金メダル候補はフランスとロシアのペアです。そして団体戦で銅メダルを2個獲得しました。現在のカナダが以前ほど強くないことを考慮すると、次の大会では順位が上がることが予想されます。しかしアメリカが最も欲しがっているのは団体戦のメダルではありません。彼らにとって理想的なのは、憧れの的となるプリンセスを生み出すことです。それが無理なら、男子のチャンピオンを得て、その並外れた運動能力が称賛するのもいいでしょう。

次の表に移る前に補足します。1980年代までは(正確な年を正確に覚えていませんので、探す必要がありますが、どの本でこの情報を読んだかさえ覚えていませんので、そのままにしておきます)、各国は何人でも好きなだけスケーターを世界選手権に派遣することが出来ました(そしてオリンピックも同様だったと推測されます)。その後、参加国の増加に伴い、ISUは正確な資格基準を定めて最大3枠に制限しました。

アメリカの五輪メダルは女子では過去3大会連続ゼロ、男子は2大会連続ゼロでした。このような結果に慣れていないアメリカは嬉しくなかったに違いありません。アメリカ連盟にとっても嬉しい結果ではなく、アメリカの視聴者にとっても同様です。そしてその結果、スポンサーとテレビにとっても・・・今後の展望を見てみましょう。

北京に行く3人のロシア女子が誰なのかは分かりませんが、誰が出場しても、表彰台を独占する可能性があります。確実にそうなるとは言われていませんが、その可能性はあります。例えロシア選手権の上位3選手ではなく、4位、5位、6位の選手が北京に行ったとしても表彰台を独占するかもしれません。ロシア女子による表彰台独占が現実に起こるかもしれないことは誰もが知っています。見込みのある代替案は?最も重要な鍵を握っているのは日本の紀平梨花です。彼女が健康で万全な状態であり(最近、怪我が多いのが気になります)、良い演技をしなければなりませんが、彼女は重要なメダル候補と見なすべきです。坂本花織の国別対抗戦での活躍にも拘らず、他の日本女子がロシアに割って入れるとは思えません。怪我から復帰したら、エリザベート・トゥルシンバエワがいますが、彼女はカザフスタンの選手です。

アメリカ女子はどうでしょうか?
ブライディ・テネル、アンバー・グレン、カレン・チェン、アリサ・リウ、マライア・ベル?
坂本が上手く滑れば彼女達全員を上回るでしょう。そして私は坂本がメダルを取れるとは思っていません。リウは実は非常に若いですから、飛躍的に成長する可能性はありますが、今シーズンの彼女を見ると、あまり期待出来そうにありません。女子シングルでアメリカの選手が表彰台に上がれる可能性は、銅メダルしか取ったことのなアイスダンスより低いと言わなければなりません。

残るは男子のメダルです。

このテーマについては数カ月前に別の記事で少し書きました(最近、少し加筆しましたが)。私は古い原稿をより完全にするために何か興味深いことを見つけることが好きですので、既に書いたものを修正するのは平気です。私がやらない唯一のことは、その記事の意味を変えることです。

1994年から始めましょう。女子シングルの金メダルを勝ち取ったのはアメリカのナンシー・ケリガンを上回ったウクライナのオクサナ・バイウルでした。この五輪はトーニャ・ハーディング(ハーディングはこの大会8位でしたが、それまでの世界選手権で3年連続銀メダルでしたので、重要なメダル候補と見なされていました)が元夫を使ってケリガン襲撃を計画したことで騒がれた大会でした。幸いなことに、攻撃者が無能だったため、ケリガンは何とか回復してオリンピックで銀メダルを獲得しましたが、この大会に対するメディアの注目度は非常に髙かったのです。

アメリカではアメリカ人女子選手がオリンピックで勝つと、そのスポーツを始める若いアスリートが急増する。例えば、6年間における五輪3大会の後、そして1994年のハーディング-ケリガン事件の後、フィギュアスケートはサッカーに次いでアメリカで2番目に人気のあるテレビスポーツになった。

過度に繰り返されるテレビ露出と、有名になる前にピークに達して競技から去っていった10代のチャンピオン達、タラ・リピンスキーとサラ・ヒューズによって、関心は横這い状態になり、そして薄れていった。そして21世紀になり、アジア(女子)とヨーロッパ(男子)がより多くのチャンピオン(シングル)を輩出し始めると、国民の大部分が自国のアスリートを応援するアメリカでは、スケートは人々の共感を失っていった。(スティーブ・ミルトン著「Figure Skating’s Greatest Star」(フィギュアスケートの最も偉大なスター)119ページ)

この引用の出典元である本は2009年に出版されました。アジアの女子達は既にアメリカ女子から主役の座を奪い始めていましたが、男子はまだでした。本田武史は2002年と2003年の世界選手権で銅メダルを獲得しますが、五輪メダルはなく、しかも既に引退していました。高橋大輔は2007年に自身初の世界選手権メダル(銀)を獲得しますが、より重要な結果、五輪銅メダルは2010年まで待たねばなりませんでした。その他の日本男子、小塚崇彦、羽生結弦、町田樹、宇野昌磨、鍵山優真、そして日本以外のアジア男子であるデニス・テンとボーヤン・ジンが現れるのはもっと先ですから、ミルトン(カナダ人ジャーナリスト)にとって、アジアの台頭はまだ女子シングルでしか起こっていませんでした。

時にはアメリカ人以外のスケーターでもアメリカの目的に応えられることがあります。1994年大会の男子の優勝候補は誰だったでしょうか?

このオリンピックのプレゼンテーションで、CBSは過去6大会の世界選手権の優勝者と過去2大会の五輪金メダリストである3人のスケーター、アメリカのブライアン・ボイタノ、カナダのカート・ブラウニング、そしてウクライナのヴィクトール・ペトレンコ(五輪金メダルの後、ラスベガスに移住し、アメリカのアイスショーツアー参加していました)に焦点を当てていました。更に2人の若手スケーター、カナダのエルヴィス・ストイコ(1993年世界選手権銀メダル)とアメリカのスコット・デイヴィス(全米チャンピオンで前年の世界選手権6位)も紹介していました。

前年の世界選手権銀メダリストでデイヴィスと違って4回転トゥループを跳ぶことが出来るロシアのアレクセイ・ウルマノフと前年の欧州選手権銀メダリストのフィリップ・キャンデロロについての言及は?
ゼロでした。

3人の過去のチャンピオン達はミスを犯し、金メダルはストイコとキャンデロロを上回ったウルマノフが手にしました。デイヴィスはペトレンコ(4位)、ブラウニング(5位)、ボイタノ(6位)、そしてフランスのエリック・ミロー(7位)に次ぐ8位に終わりました。

ストイコと母国に銅メダルを持ち帰ったキャンデロロとの優勝争いにおいて、両方のプログラムで勝利したウルマノフと共に、メディアの作り上げる物語が、北米市場で急成長中しているフィギュアスケートの人気を利用するために男子フィギュアスケートが取るべき適切な方向性の一つになった。

ゴールデンタイム後のストイコとのインタビューでパット・オブライアン(CBSのスポーツキャスター)は次のように述べている。「おそらく・・・フィギュアスケートは間違ったメッセージを発信している。何故なら、ここに君がいる。君は素晴らしい男性で、積極的に発言し、君の名はエルヴィスだ。そして君には市場性がある。これが全てだ。そしてウルマノフも好青年だと私は思う。しかし、彼はロシアに戻り、おそらく国内選手権まで我々が彼を見ることはないだろう。君はここにいて、フィギュアスケートを宣伝することが出来る・・・(エリン・ケステンバウム、Culture on Ice誌「Figure Skating & Cultural Meaning」(フィギュアスケートと文化的意味)198ページ)。

CBSにとって勝者がアメリカ人ではなく、北米人ですらないことは誤ったメッセージです。何故なら彼らにとって最も重要なのは、そのスケーターがフィギュアスケートを宣伝するためにアメリカに留まっていることだからです。

どこで宣伝するのでしょう?
当然アメリカです。他の場所で起こることに何の関心があるでしょうか?

1998年、タラ・リピンスキーが15歳と255日でオリンピック金メダルを獲得しました。史上最年少のシングルの金メダリストでした。2002年にはサラ・ヒューズが16歳と296日でオンリンピック金メダリストになりました。彼女より若い金メダリストは4人だけです(リピンスキー以外に2018年のアリーナ・ザギトワ、1928年のソニア・ヘニー、1994年のオクサナ・バイウル)。ミルトンの意見では、リピンスキーとヒューズは彼女達が有名になる前にピークを迎え、競技を去ってしまいました。数々の勝利で飾られた長い競技人生を送った最後のアメリカ人スケーターはミシェル・クワンでした。しかし、クワンは五輪金メダルを取ることが出来ませんでした。

以下が彼女達の戦歴です:

彼女にとって最後から2番目の全米選手権のフリープログラム終了後に氷上に投げ込まれたプレゼントから分かるように、クワンはアメリカ人の心を掴みました。

2002年は、当時の世界女王だったミシェル・クワンがオリンピックの金メダル候補でした。そして、自国の連盟会長であるディディエ・ゲヤゲに圧力をかけられため、カナダのペアよりロシアのペアに高い得点を与えたという、マリー・レイン・ル・グーニュの告白によって発覚したスキャンダルの数日後、1996年世界選手権の銅メダリストであり、当然フィギュアスケートを良く知ってりルディ・ガリンドは、誰が勝つと思うか?という質問に対して次のように答えています

私には分からない。しかし、私はミシェル(クワン)を推したい。私はこう言いたい。彼女に北米のユタにいる意志があるという理由だけで、彼女が勝つべき時が来たと私は思う。ISU(国際スケート連盟)も同じ意見だと私は思う。チケットの販売とスケートの人気を助けるために、オリンピック金メダルを獲るアメリカ女子が必要なことは彼らも理解している。

この言葉に対して1分間沈黙します。私もクワンを応援していましたが、ガリンドの言葉はただの応援ではありません。

ISU(国際スケート連盟)も同じ意見だと私は思う。チケットの販売とスケートの人気を助けるには、オリンピック金メダルを獲るアメリカ女子が必要であることを彼らも理解している。

チケットの販売や、特定のスケーターが勝たなければならないという連盟のニーズが、スポーツの結果と何の関係があるのでしょうか?

クワンは幾つかの細かいミスをして銅メダルに留まりますが、この結果によって彼女の人気が衰えることはありませんでした。アメリカ人は彼女を愛していました。そして彼女を愛し続けたのです。

しかしながら、(僅差で)金メダルを勝ち取ったのは別のアメリカ女子でした。アメリカ連盟にとって不運なことに、ヒューズはスターにはなりませんでした。そしてアメリカテレビの視聴率は低下しました。

ESPNは2005年にはグランプリ大会を放送していました。以下の文章は、私が電子書籍で購入したケリー・ローレンスの著書「Skatingon Air」から引用したため、ページを記すことが出来ません。

テレビ局の重役達は酷い視聴率に唖然とした。数字は年々下がっていたが、2003年と2004年にABCチャンネルが獲得した5.2と5.4という数字は、2005年の同じ大会でESPNチャンネルが獲得した1.24に比べれば断然高い数字に見える。ABC社が「電波」放送で得た数字に近づくことはないだろうと覚悟していたとはいえ、彼らはこの数字(1.24)の2倍の視聴率を期待していた。

これは国際大会の視聴率です。国内大会の視聴率はどうだったのでしょうか?
アメリカメディアがネイサン・チェンの全米五連覇を褒め称え、あろうことかディック・バトンと比較するに至ったことを覚えていますか?確かに全米五連覇はディック・バトン以来の快挙ですが、チェンのライバル達はどれほど強かったでしょうか?チェンが強いことは分かっています。しかし、私は彼の国のナショナルタイトルの実質的な価値について この記事と この記事で詳しく考察しています。それから、2010-2011年シーズン以降、より重要な大会 (オリンピック、世界選手権、グランプリファイナル)で少なくともメダルを1度獲得した選手の国籍も調べました。何故、グランプリファイナルを含めて、欧州選手権と四大陸を入れないのか?何故なら前者は国籍に関係なく、本当に強い選手だけが参加出来る大会です。一方、後者の2大会は国籍に応じてエントリーされますが、グランプリファイナルよりレベルが低いことがよくあります。

私の思い違いかもしれませんが、強い選手が多く揃っているのは1国だけで、その国のナショナルで優勝するのは難しく、従ってそのナショナルタイトルにはより重い価値があるように思われます。チェンとバトンを比較するのは・・・2026年前までは少し時期尚早ではないかと思います。
しかし大会の難易度に関係なく、アメリカ人にとって全米選手権は重要なイベントであり、常に高い視聴率を獲得してました。

ちょっと待ってください?常に?

2007年までずっとESPNとABCの両チャンネルで放映されていた全米選手権の視聴率は、10年間、下降の一途を辿っていた。数字が物語っている:1997年には7.2だった視聴率が2005年には4.9まで下がっている。そして、オリンピックの栄光さえ、前年のような影響力をもたらしていないように見える:1998年はゴールデンタイムの全米選手権は11.5の視聴率を獲得した。2006年はたった4.7だ。(ローレンス著「 Skating on Air」)

アメリカのテレビにとってこれは深刻な問題でした。

この番組のために広告を売ろうとした人々は悲惨な時間を過ごしたに違いない。重役達はどうしたらこのピンチを切り抜けられるか思案しながら契約書を眺めていたに違いない・・・大惨事だ!

視聴者がいないとスポンサーが付きません。スポンサーがいないとお金が入りません。
お金が入らないと?
多くの人が嬉しくないでしょう。

それでは基本に戻りましょう。彼らは視聴者を必要としています。そして彼らはどうやって視聴者を取り戻すのでしょうか?ガリンドの言葉を覚えていますか?アメリカでは彼らはオリンピック金メダルを獲得出来るアメリカ女子を必要としている

アメリカがチャンピオンを探している間も、大会は引き続き開催されていました。2006年オリンピックはロシアのエフゲニー・プルシェンコと日本の荒川静香が金メダルでした。ミルトンはヨーロッパ人(男子)とアジア人(女子)が優勝したと書いています。アメリカはサーシャ・コーエンの銀メダルとエヴァン・ライサチェクの4位に甘んじなければなりませんでした。

少なくともコーエンは、オリンピックで銀、世界選手権で銀2個と銅1個、グランプリファイナルで金1個と銀2個と、4年間に渡って主要なメダルを獲得していましたから全く無名の選手という訳ではありませんでした。彼女はオリンピックでも、その後の世界選手権でも、ショートプログラムでは首位でしたが、フリースケーティングでミスがあり、銀メダル1つと銅メダル1つしか獲得出来ませんでした。

想像してみてください。最も愛されているスケーター、クワン(怪我のために大会を棄権しましたが、無名の選手ではなく、有名な選手でした)ではないアメリカの選手がショートプログラムで首位に立ちます。視聴者はどうしたでしょうか?

2006年2月23日、女子フリーが高視聴率の長寿番組「アメリカンアイドル」に対抗し、大差で敗れた(アイドルは2,350万人、オリンピックは1,770万人)。1週間前にも同じようなことが起こり、男子フリーとアイドルが視聴者数を競い合い、2700万人対1610万人でアイドルが圧勝した。しかし、女子フリーは常にオリンピックの中でも最高視聴率のイベントなだけに、アイドルに負けた事は衝撃的だった。(ローレンス)

オリンピックの女子シングルの試合の視聴率が歌謡コンテストに負けたのです。楽観的な材料ではありませんし、スポンサーを誘致する最善策でもありません。

コーエンは五輪シーズンが終わると引退し、2006年の世界チャンピオンであるキミー・マイズナーは続けようと試みるものの怪我に苦しめられ、キャリアの長い、勝てるアメリカのチャンピオンは底を尽き始めました。特に「勝てる 」という点において、アメリカは低迷し始めました。 まだジュニアだった2008年に全米女王になった長洲未来は、オリンピック2大会に出場し、最高4位、3度出場した世界選手権は最高7位でした。2010年の全米女王レイチェル・フラットは、オリンピック7位、3度出場した世界選手権では最高5位でした。2009年と2011年の全米女王であるアリッサ・シズニーは2009年世界選手権のショートプログラムで14位に沈みました。

その結果、NBCは彼女のフリースケーティングを放送から完全に外すことを選択した。テレビの視聴者が現全米女王を世界選手権で見ることが出来なかったのはこれが初めてのことだった。(ローレンス)

時が経つにつれて事態は悪化する一方でした。アメリカのチャンピオンは著書Push Dick’s Button」(ディックのボタンを押す)の中でこう語っています。

私は2013年世界選手権をテレビの生中継で見られないのが気に入らない。これはおそらくアメリカにおける視聴率が、悪さをしたワンちゃん達が送られる穴倉に落ちたからだろう(視聴率が大暴落したからだろう)。2014年世界スケート選手権は冬季オリンピックの大騒ぎの直後の3月に開催され、4月に2週間遅れで放送されるダイジェストだけで生中継されない。(224-225ページ)

 

問題は全てここにあります。お金を出してくれるスポンサーを引き付ける視聴率です。これはアメリカだけの問題でしょうか?そうとは言えません。AP通信スポーツライターのスティーブン・ウェイドはこのスレッドでこのように説明しています。

国際オリンピック委員会(IOC)はスポーツビジネスである。NFLやNBAのように放送権を売ることで生計を立てている。これが収入源のほぼ75%を占めている。

更にこう書いています。

IOCの全収益の約40%はアメリカのテレビ局NBCから入る。IOCとNBCは実際パートナーとして活動している。

アメリカの視聴率が低下した場合、ISUとIOCの両方にとって問題なのです。従って、CBS幹部が 「北米市場で急成長中しているフィギュアスケートの人気を利用するために男子フィギュアスケートが取るべき適切な方向性」について思案したり、ガリンドが「ISUはチケットの販売とスケートの人気を助けるために、オリンピック金メダルを獲るアメリカ女子が必要なことは彼らも理解している」と述べたことについて、私達は心配するべきでしょう。

2010年

フラットと長州はバンクーバー冬季オリンピックでことのほか良い演技をした。(ローレンス)

にも拘わらず、7位と4位に終わりました。女子の試合でメダルの望みがない以上、男子に期待しなければなりません。そしてバンクーバーではアメリカの希望はエヴァン・ライサチェクでした。

プロデューサー兼ディレクターのロブ・ダスティンによるフィギュアスケートスケートとアメリカンアイドルの比較に戻りましょう。

アメリカンアイドルは我々がフィギュアスケートで行っていたのと同じことをしています:その才能によって「誰か」になる「名もない人」のストーリーを語り、その人物の周りにストーリー展開を作り上げます。

「誰か」になる「名もない人」のストーリーを語る。そう、これはテレビが本気になれば出来ることです。

スケートの解説者はライサチェクが2008年に初めて全米王者になった時から、彼の市場可能性を誇大宣伝し始めた。アメリカのスケートブロガーが言ったように、 「一部のメディアと米フィギュアスケート界は、我々のスポーツがおそらく切実に必要としている「肉とジャガイモ」の男(ありふれた男)として宣伝するのにエヴァン・ライサチェクは非常に都合がいいと感じていた。背が高く、いわゆるルックスの良いライサチェクの出現は、マーケティング機会という点においてこれ以上ないタイミングだった。オリンピックイヤーに世界チャンピオンに輝いたことも、オリンピック金メダルに向けて彼にとって追い風になった。更に、彼のCM出演契約を引き付ける能力にとっても重要だったのは、2010年が、通常、冬季オリンピックで最も誇大宣伝されるアメリカ女子が有名選手無しでオリンピックに向かうのは10年ぶりのことだったという事実である。誰かがメディアの空白を埋めなければならなかった。世界チャンピオンとして既に有名なゴシップ欄で特集されていたハンサムなライサチェクは有望な候補者だった。(メアリー・ルイーズ・アダムス著「Artistic Impressions」(芸術の印象)

ライサチェクは金メダルを獲りましたが、彼がどのように勝ったかについては長々と議論することが出来ます。 こちらの記事(M.G.パイエティ著「スパンコールとスキャンダル」)もお読みになることをお勧めします。オリンピッグ金メダルの直後に引退し、1か月後の世界選手権もスキップしたライサチェクの後、アメリカの男子フィギュアスケートにも女子と同じ危機が訪れました。危機はそれほど長く続きませんでしたが、アメリカのメディアは彼らが勝手に使えるものを駆使して国民の関心を引くために最善を尽くしました。

私は平昌前に公開された当時何も勝っていなかった選手を最強のスケーターと呼ぶ記事や、その少し後に公開された、団体戦で銅メダルを取ったスケーターが五輪二連覇を達成したばかりの誰かより有名だと説明する記事など、鬱陶しい記事を散々読みました。私は気まぐれでこれらの記事を見つけることが出来ました。記事と真面目な分析に加えて、私は一連のプロパガンダも保存しています。これらの資料は報道機関の一部が非常に具体的なアジェンダ(意図、計略)を持っており、真実の追求を彼らの関心の中心に置いていないことを思い出すために何時役立つか分かりません。ただ、現時点ではこれ以上、泥を掘り返したくありませんので、この辺で止めておきます。しかしここ数年間における、そして近い将来に行われる大会の公平性について私は多くの懸念を抱いています。 結局のところ、私達は皆、アメリカのテレビ局が何を必要としているのかを知っています。

最後に、パイエティの2つの記事のリンクをクリックして読んでみて下さい。私はクリック数を見ることが出来ますので、何人の人が記事のリンクをクリックしたか知ることが出来ます。読むかどうかはあなた次第ですが、もしこれらの記事を読まなければ、非常に興味深い考察を見逃したことになります。確かに、パイエティは男子ではなく、アイスダンスについて書いており、デイヴィス/ホワイトとバーチュ/モイアの比較に焦点を当てています。しかし・・・この2つの記事の一部をここに引用します:

グループのほとんどのメンバー(米Yahooのフィギュアスケートグループの登録者)はデイヴィス/ホワイトは金メダルを獲るために助けを必要していないと始終繰り返していました。彼らはここ数年間、あらゆる大会で勝っています。悲しいことにこれは事実です。しかし、これらの他の勝利によって彼らは助けを必要していないという暗黙的な前提を築くことで、デイヴィス/ホワイトは(五輪では)助けを必要としていたかどうか、という疑問を巧みにはぐらかすことが出来ます。

よく似た状況が思い浮かびませんか?

もう一度リンクを貼ります:

更にもう一つの五輪フィギュアスケートのジャッジングスキャンダル

五輪のアイススケートがもっと沈む可能性はあるか?

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ストックホルム世界選手権の前、ISUの公式ツイッターはネイサン・チェンのマネージメント会社になったのかと思われるほど、連日ネイサンばかりを宣伝していました。アメリカのジャーナリストがマッシミリアーノさんのFBで「あなたは何故羽生の宣伝ばかりするの?」と言いがかりをつけていましたが、中立・公正な立場であるべきISUの公式アカウントが特定選手のプロパガンダに専心することこそ大問題だと思うのですが、この点についてはどう考えているのでしょうか?

しかし、ドイツ公式スポーツチャンネルの「Let me Entertain You」の再生数、国別の後、アメリカでトレンド入りしたのがアメリカ自慢のチャンピオンではなく、Yuzuだったことなどを考えると、ISUによる涙ぐましいプロパガンダが功を奏しているとは思えません。
ネイサンがアメリカのテレビでどの程度宣伝されているのかは知りませんが、平昌の頃、ネイサンを特集する番組を見てライバルとして紹介されていた羽生君の方に興味を引かれ、過去動画を見て沼に堕ちたとか、テレビでネイサン凄い凄いと宣伝していたのでそんなに凄いのかと平昌男子ショートを見て羽生君のショパンに心を奪われた、というアメリカ人は何人か見ました。

最近ではカトリックのシスターとかVOGUEなど有名誌の女性プロデューサーと言ったアメリカ人が羽生君に魅せられていましたね(一体どこで見つけたんだろう🤔)。

シスター・メアリー・ジョセフのツイート

Vogueプロデューサーのツイート

アメリカメディアやISUのやり方を見ていると、「北風と太陽」というイソップ寓話を思い出します。
太陽は勿論、羽生結弦です。
そして人工的に作られたどんな高価な照明器具も太陽の光にはかなわないのです。

しかしNBCからIOCに支払われる放送料が莫大な金額であることは知っていましたが、全収益の40%も占めているとは知りませんでした。だからNBCのご意向に従って選手にとってどんな過酷なスケジュールでも団体戦の直後にシングルの試合を押し込み、アメリカテレビのゴールデンタイムに合わせて早朝から試合をする訳ですね。アスリートファーストからは程遠いです。

東京オリンピックもそうですが、本来の五輪の理念からどんどん離れ、商業面や一部の人々の利権ばかりが優先されている印象を受けます。

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu