Sportlandiaより「ダニエル・カーネマン著ファースト&スロー:方法の仮説」

前記事の続編です。今回は英語で書かれています。
前半は前記事の要約と一部抜粋で、同じ内容の繰り返しになりますので省略しました。

 

マルティーナ・フランマルティーノ著
(2021年2月7日)

原文>>

試合で審査するのは難しい仕事であり、これについては否定しません。ジャッジは短時間で多くのことを評価せねばならず、ISUの優先事項は彼らの負担を減らすために、最適なテクノロジーを提供することです。ジャッジによる採点ミスの影響を最終的に最小限に抑えるために試合には数人のジャッジがいます。最も重要な大会では9人です。ただし、これはジャッジが互いに独立して評価する場合にのみ機能します。 多数の人間が難しい評価をしなければならない時、彼らは間違いを犯します。 それは避けられません。

しかしながら、もし

一個人の間違いが、他者の間違いとは無関係であり、体系的なバイアスが存在しない場合、平均は0になる傾向がある。ただし、間違いを削減する魔法は、各自の観察が独立しており、間違いが相関していない場合にのみうまく機能する。観察者がバイアスを共有している場合、判断の集約が間違いを減らすことはない。

これはカーネマンの説明です。

(回答者に十分な情報がない)難しい質問に対し、回答者が全員自主的に答えを出し、回答者が大勢いる場合、平均値は正しくなる。しかし、回答者の一部が、それが正解か否かに拘わらず別の回答者の答えに倣って答えを出した場合、平均の形が崩れる。

この観念をフィギュアスケートに当てはめると、以下のようになります:

ジャッジが他ジャッジの得点を知らずに各自が独立して得点を与えた場合(加えて彼らが公正で有能であることが前提になりますが、ここでは敢えてそうだと信じる振りをしましょう)、最終的な結果は正しくなる。

 従って、あるジャッジが別のジャッジと話したり、そのジャッジの得点を見たりすると、試合の結果が歪められます。これがルールに記載されているように、各ジャッジが独立して採点しなければならない理由であり、2011年にヴァルター・トイゴが、ジャッジ義務の不履行、およびISUまたは倫理規定に対する違反行為で有罪と判断され、ジャッジ資格を停止された理由です。

おそらくトイゴは資格停止処分が気に入らなかったでしょう。私の知る限り、彼は何度か資格を停止されたジャッジの一人ではありません。資格停止は彼らにとって痛くも痒くもないのです。例えば、スヴャトスラフ・バベンコは少なくとも2度資格停止処分を受けており、彼についてはこちらの記事で既に取り上げています:
https://sportlandiamartina.wordpress.com/2020/10/19/di-giudici-giurie-e-giudizi-equi-9/  https://sportlandiamartina.wordpress.com/2020/10/25/di-giudici-giurie-e-giudizi-equi-14/

こちらの記事では70年代に資格停止処分になったジャッジのリストを公開しており、幾つかの名前は2度登場します:

https://sportlandiamartina.wordpress.com/2020/10/16/di-giudici-giurie-e-giudizi-equi-6/

おそらく、彼らにとって資格停止処分は大したことではないのでしょう。だから行いを改めず、2度目の処分を受けたのです。ただ私は全ての懲戒処分を把握している訳ではありません。これらのケース以外に何か存じな方はリストに追加しますので、私に知らせて下さい。

トイゴの資格停止処分の話はこのぐらいにして、カーネマンの著書に戻りましょう。
カーネマンはアンカーについて書いています:

アンカー効果は、未知の数量に対して数値を割り当てなければならない際、人がまず選択可能は特定の数値から始めようとする時に起こる。この現象は、実験心理学で最も立証・認識されているものの1つである。推定値は、被験者は出発点である数字付近に留まり、それがアンカーのイメージを彷彿させる理由である。

彼はアンカー効果が何かを説明するために幾つかの例を挙げました。その一つはセコイアスギの高さに関する例です(165ページ)。まず彼は何人かの人に最も高いセコイアスギが365メートルより高いと思うかどうか尋ねました。その後、世界で最も高いセコイアスギの高さはどれぐらいだと思うかを尋ねました。彼は同じ2つ質問を365メートルを54メートルに変更して別の人達に対しても行いました。

最初のグループの人が答えた世界最高のセコイアスギの高さの平均が257メートルだったのに対し、2番目のグループの答えの平均は86メートルでした。その差は171メートルです。

驚異的な違いです。

さて、スケーターが国内選手権で高いPCSを獲得した場合、この数字は国際大会でもその選手のPCSを引き上げるアンカーになります。これは推測ではなく、事実によって証明されています(前記事で書きました)。

つまり、期待値、アンカー、そのスケーターの最後の試合における結果と彼が受け取った得点は重要なのです。このような理由から、国内選手権でも過剰評価が度を越しているジャッジには国際大会のジャッジを禁止すべきです。何故なら彼らが特定の大会にいなくても、国際大会の結果を歪めるからです。

そして、事実(アンカーと得点が高過ぎるという証明可能な2つの事実)と、とりわけジャッジの行為を厳格に管理することによって実現可能な公正な大会を願う気持ちに加え、別の懸念があります。

以下は私の推測に過ぎず、これが事実だと言っているのではありません。ただ・・・その可能性はあります。懸念というのはこうです。あの日の試合は例え採点ミスだらけだったとしても、もしかしたら誠実に採点されたのかもしれません。そして多くの採点ミスがあったのは事実です。わたしは2019年グランプリファイナルの男子の試合について話しています。

議論の余地のない事実な何でしょうか?
コレオシークエンスの最中にチェンは躓きました。躓きのあったコレオシークエンスはエフォートレスではありませんし、GOEでマイナスされるべきです。この日の彼のコレオシークエンスは最高でも+2が妥当でした。しかし彼が貰った得点は+4と+5だけでした。これはジャッジ全員が犯した重大な採点ミスです。採点ミスは他にもありましたが、本格的な分析は長くなりますので、もっと時間がある別の機会に先送りにします。

さて、ここまでに書いたことは前提です。アンカーについて考察し、各スケーターに対して何点が相応しいか分からないジャッジについて考察します。簡単なのは、他のジャッジの得点を見ることです。
しかし、もしそうしたくない場合は?
ここからは推論の域です。私は物事がこのように運んだと言っているのはありません。あくまでも可能性、全ての大会に存在する可能性だと言ってるのです。私が自分の仮説であるジャッジの実際の得点を使うのは、彼の問題行動を批判するためでなく、彼の得点が私の例にぴったりだからです。

これはショートプラグラムの結果です。最初がチェンのプロトコルです。彼はコンビネーションで大きなミスのあった羽生を大差でリードしました。正確に言うと、どちらのスコアも正しくありませんでした。チェンは1位に値しましたが、得点はもう少し低く、羽生は2位には変わりありませんが、もう少し高い得点でした。事実、ショートプログラムを終えて現世界チャンピオンが1位、世界選手権銀メダリストが2位でした。これは事実です。

ここからは想像になります・・・あなたには本当に優れてるのはどちらのスケーターなのか分かりません。両者共に強い選手だということは知っています。おそらく、あなたは既に倫理規定とISUのルールに問題があると感じていて、もしかしたらあなたの同僚の何人かもこの種の問題を抱えているかもしれません。正直、2人の間にどんな違いがあるのか分からない場合、どのようにして強いスケーターを区別しますか?

簡単な方法、自分を窮地から救ってくれるとあなたが考える方法は、おそらくアンカーを見つけることです。世界チャンピオンが1位?確かに彼がクリーンなプログラムを滑って勝てば、何の問題もありません。そうなれば、あなたの得点は非の打ちどころのないものになり、誰も文句をつけないでしょう。世界チャンピオンには+4と+5だけ、対戦相手には+5は無し、+4を少しだけに留めれば、確実に、そう確実に2位になるでしょう。PCSも同じ方法で出しましょう。

羽生には自分の採点の平均よりやや高めのGOE、しかしチェンには呆気にとられるような高得点。PCSではチェンに最高得点(実際彼はチェンには全項目で同じ得点、それも非常に高い得点しか与えていません。彼にとってはコンポーネントもどれも同じなのです)、そして羽生には全ジャッジ中、最も低い得点を与えています。

羽生は2位でなければならない、というアンカーが余りにも強かったため、彼はPCSで羽生をエイモズより下の3位にした唯一のジャッジでした。彼は羽生とエイモズにSS、TR、PE、INで同点を与え、COで羽生を8.75、エイモズを9.00にしました。

得点の理不尽は両者に与えられたPerformanceの8.75によって強調されています。羽生は4回転ジャンプを5本着氷しました。確かに彼はアクセルがシングルになり、3Fが回転不足でしたが、エイモズはクワドを2本しか跳ばず、内1本は転倒し、2本のジャンプで回転不足でした。Performanceが同点???

国内選手権における高得点はジャッジの脳内にスケーターのレベルを設定する非常に危険な先例であり、自分の得点にあまり自信のないジャッジは特に影響を受けやすくなります。ISUが公正な試合を望んでいるのなら、全てのジャッジを注意深く監視し、バイアスが露骨なジャッジは(例え偏向採点を行ったのが国内大会であったとしても)国際大会から締め出し、より優れたテクノロジーを使用し、全ジャッジのトレーニングに最善を尽くすべきです。心理レベルにおけるトレーニングも実施すべきであり、「ファースト&フロー」のような本を読ませるべきです。

☆筆者プロフィール☆
マルティーナ・フランマルティーノ
ミラノ出身。  書店経営者、雑誌記者/編集者、書評家、ノンフィクション作家
雑誌等で既に700本余りの記事を執筆

ブログ
書評:Librolandia
スポーツ評論:Sportlandia

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マルティーナさんがイタリアジャッジの採点を分析した記事を投稿した後、彼のジャッジ仲間で、本職は弁護士と名乗る人物(マルティーナさん曰く、この人も偏向ジャッジの一人だそうです)から記事をすぐに削除しろと彼女の職場である出版社に抗議が来たそうです。
出版社の編集長が取り合わないと、今度はマルティーナさん自身に連絡があり、もし記事を削除しなければ、彼女とその家族がスポーツクラブに所属出来ないように圧力をかけると脅してきたそうです。

具体的な根拠や証拠を示して記事のこの箇所が間違っている、あるいは全部事実ではないから削除または修正しろと論理的に抗議するならまだしも、「家族全員スポーツクラブに所属出来ないようにしてやる」とは!

これでは明らかに脅迫です。弁護士の発言とは思えませんし、このような倫理観の人間がジャッジというのも恐ろしいです。

しかし、マルティーナさんの方が一枚上手で、弁護士であるご主人から脅迫罪と名誉棄損で訴える用意がある、という内容の文書を送ったところ、今度は下手に出て懐柔しようと試みてきたとか。
つまり記事の内容自体は正しいと認めたということでしょうか?

まるでマフィアです。
一体どんな世界なんでしょうか???

 

Published by Nymphea(ニンフェア)

管理人/翻訳者(イタリア在住)。2011年四大陸チゴイネ落ち @pianetahanyu